私がヤンキー校の勝利の女神!?
2
昨日職員室で対応してくれた先生ではない少し体格の良い先生。
どうやら対応してくれた先生は事務作業をメインとしているため、基本職員室にいるそうだ。
何かあった時は職員室に行こう……。
「席つけー、静かにしろー」
慣れた先生の対応に慣れた生徒たちの反応。その様子を私は廊下で静かに待っていた。
教室プレートには「2-1」と書いている。
聞いた話によると、ヤンキー高校の中でも比較的大人しい生徒が多いのだそう。
一向に静かにならないクラス。だが、先生は当たり前のように「転校生入って来い」などと言う。
転校生が来るからざわついているわけでもないこのクラスに入って、私は誰かの目に留まるのだろうか。
……いや、留まる必要もないか。ひっそりと過ごして何事もなく卒業できればそれでいい。
このクラスが1番まともとされているのにコレということは、他のクラスはどれほど荒れているのだろう。
考えただけでゾッとする。
一度深呼吸をして扉に手をかけた。
扉を開け入った途端、ピタリと止まった騒音。あまりの静けさに私は自分に視線が集中していることに気づくのが遅れた。
漫画やドラマだとここまで静かになっているヤンキー学校なんて見たことがない。
先生に黒板へ名前を書かされ挨拶するように促され、私は緊張で固まってしまっている喉から声を振り絞る。
「ゆ、夢咲一華……です。これからよろしくお願いします」
その途端、「夢咲?」「どっかで聞いたことある苗字だな」など私と言うよりも苗字に反応している。
兄の影響なのかもしれないが、兄と私は10歳以上年が離れている。私と同い年の人たちが兄を慕っていることは少ない、はずだ。
むしろ知っている人こそ少ないはず。そう思うものの、この反応からしてかなり有名なのは間違いないだろう。
「夢咲は……あの窓の席。プリントが置いてあるところ」
「はい」
端っこで黒板から遠い場所。ひっそりとしたい人間にはうってつけの場所だ。
席に着くまで視線は続き、先生に「見過ぎだ!」と怒られてやっと視線を外してもらえた。
「よ、よろしくお願いします」
「……」
隣の席の金髪の人に挨拶をしたが、完全無視。
挨拶を返してもらえると言う期待はしていなかったが、こちらを振り向きもしない。
……めげないめげない。正直よろしくされても私が困る。
置いてあったプリントをざっと見た後、クリアファイルに挟み、折り曲がらないようにカバンへと入れた。
いつのまにか私がこの教室に入る前と同じように騒がしくなっていて、あまり私を気にしていないようだった。
私は喧嘩に強そうにも見えないだろうし、絶世の美女と言うわけでもない。
あまり興味を持つ要素がなかったのだろう。苗字が少し気になっただけ。それだけだ。
よかった。これで黒子のように薄い存在で卒業できればそれでいい。
隣の金髪の人は机に突っ伏している。寝息は聞こえてこないが寝たふりなのだろうか。
気になってじっと眺めていたせいか、金髪の人は不愉快そうにこちらを睨んだ。
睨まれたはずなのに綺麗な顔立ちに私は思わず息を飲んだ。
「綺麗……」
「は?」
口に出すつもりもなかった言葉。だが、口から漏れ出ていたようで、金髪の人は今にも胸ぐらを掴んできそうな勢いで凄んでいる。
「ご、ごめんなさい。言うつもりなかったんですぅ!」
必死に謝るが金髪の人の怒りは収まらず。
私は何か渡せないかとカバンを漁り棒突きキャンディーを取り出した。
その時に金髪の人の視線はそちらに向いた。わずかに怒りも収まっているような気がした。
「えっと、飴は好きですか?」
「……嫌いじゃない」
そう聞いた私は有無も言わさず飴を渡して「お詫びです」とだけ言う。
何か言われる前に視線を外して、ノートを取っている風を装った。
横目で隣を見てみると、金髪の人は私が渡した飴を早速咥えて黙っている。
助かった。私は小さく息を吐いた。
もう一生金髪の人の方向は向けないと思ったのだった。
相変わらず私語の多いクラスだが、先生は気にせず授業を進めていく。
怒られない程度に控えている生徒が多いこともあるだろうが、先生の声がしっかりと私のところまで届くのが救いだ。
ヤンキーも意外と授業受けるんだ……。そんなことを思いながら、一際目立つ赤髪の人を盗み見た。
廊下側で前の方に座っている人。先生に質問されると、スラスラとそれに答えて先生も満足そうにしているのが印象的だった。
1限の授業が終わり、やっと終わったと安堵する。
なんとか授業にはついていけそうだが、時々声が聞こえなかったり黒板が見えなかったりすることがあった。
いきなりだが先生に席を変えてもらえるようにお願いしてみようか……。
「夢咲」
「は、はい!」
不意打ちで先生に名前を呼ばれ、慌てて返事をしたが、先生は気にすることなく言う。
「佐藤を起こしてくれ」
「佐藤……?」
「隣の金髪のやつだ」
先ほど怒らせてしまった金髪の人は佐藤と言うらしい。
「佐藤さん、佐藤さん」と声をかけ指で肩をつつくと「ん〜」と唸りながらも顔をあげ私を見た。
「佐藤って名前嫌いだから天海って呼んで」
「あ、はい。天海さん。……先生が呼んでます」
「何、オレ何もしてなくね?」
「何もしてないから悪いんだろうが。黒板消せ」
「はぁ? なんでオレが消さなきゃなんねぇの」
「罰則だって言っただろ。もう忘れたのか。黒板消しが嫌なら反省文1万字書かせるぞ」
何をしたのか知らないが、天海さんは罰則を受けるほどの何かをしたようだ。
天海さんは反省文という言葉で「あー」と思い出したように立ち上がる。
適当に黒板を消したが、消せてないところがたくさんある。
先生は指摘せず「よしよし」と言いながら消しきれていない場所を先生自身が消した。
「夢咲、気をつけろよ」
「何をですか?」
先生は小さな声で私に耳打ちする。暴力暴言が多いから言葉選びには気をつけろと言うことだろうか。
もう失敗しているけれど。
「佐藤は怒らせると女でも殴る」
「そんな人の隣にしないでください……」
「仕方ないだろ。佐藤に追い詰められたやつが辞めた空席なんだから」
「せ、席替えはありですか」
「すまんな。ない」
即答する先生。どうやら席替えを喜ぶ生徒はおらず好きに決めた席なのだそう。
最初は一応五十音で並んでいたらしいが。
「怒らせないように頑張ります」
私が話しかけなければいいよね。そうだよね。できるだけ人に関わらず過ごそう。
そう私は誓ったのだった。
どうやら対応してくれた先生は事務作業をメインとしているため、基本職員室にいるそうだ。
何かあった時は職員室に行こう……。
「席つけー、静かにしろー」
慣れた先生の対応に慣れた生徒たちの反応。その様子を私は廊下で静かに待っていた。
教室プレートには「2-1」と書いている。
聞いた話によると、ヤンキー高校の中でも比較的大人しい生徒が多いのだそう。
一向に静かにならないクラス。だが、先生は当たり前のように「転校生入って来い」などと言う。
転校生が来るからざわついているわけでもないこのクラスに入って、私は誰かの目に留まるのだろうか。
……いや、留まる必要もないか。ひっそりと過ごして何事もなく卒業できればそれでいい。
このクラスが1番まともとされているのにコレということは、他のクラスはどれほど荒れているのだろう。
考えただけでゾッとする。
一度深呼吸をして扉に手をかけた。
扉を開け入った途端、ピタリと止まった騒音。あまりの静けさに私は自分に視線が集中していることに気づくのが遅れた。
漫画やドラマだとここまで静かになっているヤンキー学校なんて見たことがない。
先生に黒板へ名前を書かされ挨拶するように促され、私は緊張で固まってしまっている喉から声を振り絞る。
「ゆ、夢咲一華……です。これからよろしくお願いします」
その途端、「夢咲?」「どっかで聞いたことある苗字だな」など私と言うよりも苗字に反応している。
兄の影響なのかもしれないが、兄と私は10歳以上年が離れている。私と同い年の人たちが兄を慕っていることは少ない、はずだ。
むしろ知っている人こそ少ないはず。そう思うものの、この反応からしてかなり有名なのは間違いないだろう。
「夢咲は……あの窓の席。プリントが置いてあるところ」
「はい」
端っこで黒板から遠い場所。ひっそりとしたい人間にはうってつけの場所だ。
席に着くまで視線は続き、先生に「見過ぎだ!」と怒られてやっと視線を外してもらえた。
「よ、よろしくお願いします」
「……」
隣の席の金髪の人に挨拶をしたが、完全無視。
挨拶を返してもらえると言う期待はしていなかったが、こちらを振り向きもしない。
……めげないめげない。正直よろしくされても私が困る。
置いてあったプリントをざっと見た後、クリアファイルに挟み、折り曲がらないようにカバンへと入れた。
いつのまにか私がこの教室に入る前と同じように騒がしくなっていて、あまり私を気にしていないようだった。
私は喧嘩に強そうにも見えないだろうし、絶世の美女と言うわけでもない。
あまり興味を持つ要素がなかったのだろう。苗字が少し気になっただけ。それだけだ。
よかった。これで黒子のように薄い存在で卒業できればそれでいい。
隣の金髪の人は机に突っ伏している。寝息は聞こえてこないが寝たふりなのだろうか。
気になってじっと眺めていたせいか、金髪の人は不愉快そうにこちらを睨んだ。
睨まれたはずなのに綺麗な顔立ちに私は思わず息を飲んだ。
「綺麗……」
「は?」
口に出すつもりもなかった言葉。だが、口から漏れ出ていたようで、金髪の人は今にも胸ぐらを掴んできそうな勢いで凄んでいる。
「ご、ごめんなさい。言うつもりなかったんですぅ!」
必死に謝るが金髪の人の怒りは収まらず。
私は何か渡せないかとカバンを漁り棒突きキャンディーを取り出した。
その時に金髪の人の視線はそちらに向いた。わずかに怒りも収まっているような気がした。
「えっと、飴は好きですか?」
「……嫌いじゃない」
そう聞いた私は有無も言わさず飴を渡して「お詫びです」とだけ言う。
何か言われる前に視線を外して、ノートを取っている風を装った。
横目で隣を見てみると、金髪の人は私が渡した飴を早速咥えて黙っている。
助かった。私は小さく息を吐いた。
もう一生金髪の人の方向は向けないと思ったのだった。
相変わらず私語の多いクラスだが、先生は気にせず授業を進めていく。
怒られない程度に控えている生徒が多いこともあるだろうが、先生の声がしっかりと私のところまで届くのが救いだ。
ヤンキーも意外と授業受けるんだ……。そんなことを思いながら、一際目立つ赤髪の人を盗み見た。
廊下側で前の方に座っている人。先生に質問されると、スラスラとそれに答えて先生も満足そうにしているのが印象的だった。
1限の授業が終わり、やっと終わったと安堵する。
なんとか授業にはついていけそうだが、時々声が聞こえなかったり黒板が見えなかったりすることがあった。
いきなりだが先生に席を変えてもらえるようにお願いしてみようか……。
「夢咲」
「は、はい!」
不意打ちで先生に名前を呼ばれ、慌てて返事をしたが、先生は気にすることなく言う。
「佐藤を起こしてくれ」
「佐藤……?」
「隣の金髪のやつだ」
先ほど怒らせてしまった金髪の人は佐藤と言うらしい。
「佐藤さん、佐藤さん」と声をかけ指で肩をつつくと「ん〜」と唸りながらも顔をあげ私を見た。
「佐藤って名前嫌いだから天海って呼んで」
「あ、はい。天海さん。……先生が呼んでます」
「何、オレ何もしてなくね?」
「何もしてないから悪いんだろうが。黒板消せ」
「はぁ? なんでオレが消さなきゃなんねぇの」
「罰則だって言っただろ。もう忘れたのか。黒板消しが嫌なら反省文1万字書かせるぞ」
何をしたのか知らないが、天海さんは罰則を受けるほどの何かをしたようだ。
天海さんは反省文という言葉で「あー」と思い出したように立ち上がる。
適当に黒板を消したが、消せてないところがたくさんある。
先生は指摘せず「よしよし」と言いながら消しきれていない場所を先生自身が消した。
「夢咲、気をつけろよ」
「何をですか?」
先生は小さな声で私に耳打ちする。暴力暴言が多いから言葉選びには気をつけろと言うことだろうか。
もう失敗しているけれど。
「佐藤は怒らせると女でも殴る」
「そんな人の隣にしないでください……」
「仕方ないだろ。佐藤に追い詰められたやつが辞めた空席なんだから」
「せ、席替えはありですか」
「すまんな。ない」
即答する先生。どうやら席替えを喜ぶ生徒はおらず好きに決めた席なのだそう。
最初は一応五十音で並んでいたらしいが。
「怒らせないように頑張ります」
私が話しかけなければいいよね。そうだよね。できるだけ人に関わらず過ごそう。
そう私は誓ったのだった。