私がヤンキー校の勝利の女神!?

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 裏正さんに勝利の女神について説明を聞いた限り、特別私が何かすることはないらしい。
 このヤンキー高校のジンクスのようなもので、彼女や守りたい女のいる男が最強に立つ率が高いのだと。
 
 兄に彼女はいなかった。しかし、私に悪い虫がつかないようしたいという願望があったため、強くなったらしい。
 1年生から負けなしだったこともあり、そこから伝説が始まったとかなんとか。
 
 だからそのポジションを私に任せたいのだと。

「彼女になってほしいってことですか?」
「今回は君を賞品としたいってところかな」
「ちょっとジンクスとは違くないですか……?」

 勝った男の彼女(賞品)になる。
 簡単に言えばそう言うこと。だが、この学校のジンクスは彼女や守りたい女ができた、または居たからというもの。
 賞品に置くのは少し違う気がする。

「女が絡めば強くなるとでも思ってんのかよ」

 いつの間にか私の背後に立っていた一矢さん。私を一瞥した後、裏正さんの隣の机に座った。

「雑に言えばそうだね。強い男は例に漏れずそうだったから」
「こんな女のために戦うなんて、誰が喜ぶんだよ」
「僕は姉さんがいるから強いと言ったら?」
「は?」

 裏正さんにはこの学校を卒業したお姉さんがいるらしい。
 姉は負けず嫌いで、弟にも「喧嘩で負けたらタダじゃおかない」と言っているのだそう。
 ちなみにお姉さんがいた時も、お姉さんの彼氏が最強になっていたのだとか。
 また、お姉さんはモテる人で、取り合いになったこともあるのだと。
 その時、奪う側もいつもより強かったらしいと裏正さんは話す。

「応援してくれる人や欲しい人がいるから強い、と?」
「夢咲さんの言う通り。ま、可能性の話だけどね」
「女じゃなくてもよくねーかそれ」

 嫌そうに私を見てくるが、別に私が一矢さんの彼女になると決まったわけでもないのに失礼だ。
 口にも態度にも出すつもりはないが、一この態度のままであれば一生一矢さんを応援することはないだろう。
 頼まれても応援したくない。

「私を賞品として扱うってだけで、別に勝ち抜いた人と強制的に恋人同士ってことじゃないんですよね?」
「うん。夢咲さんを手に入れるため戦うっていうのは建前だから」
「なら、いいですよ。どうせ兄のせいで注目浴びてますし……」
「ありがとう夢咲さん。伝説の男の妹だし、興味のある人は多いだろう。もし何かあったら僕の名前を出してくれて構わないから」
「はい。ありがとうございます」
「敬語はいらないよ。あと、一応今は僕のものだから、下の名前で呼んでね。僕も一華と呼ばせてもらうから」

 何故か手を添えられて、目を細めて笑う。
 その表情があまりにも妖艶で一瞬動けなかった。

「わ、わかった。よろしくね、眞大君」

 少し照れてしまうな……と眞大君から目を逸らしたところで、一矢さんと目が合う。
 すごい顔をしている。顔を歪めて心底軽蔑するような表情。
 私の照れでそこまで歪めなくてもいいだろうと言いたいほどだ。

「女にうつつ抜かして負けちまえ」
「はは、頑張って這い上がってきてね」

 兄に会わせろと言いに来ただろう一矢さん。
 だが、今回は私と眞大君のやり取りに完全に流され、話す気すらなくなってしまったようだ。
 チャイムが鳴る前にさっさと教室から出て行ってしまった。

「眞大君を負かしたら、兄に会わせなくもないですよ」

 廊下からそう声をかけると、こちらに振り向き指をさしてくる。
 
「言ったな!? 絶対だからな!」
「眞大君に勝てればの話ですけどね」
「あはは、一華は発破をかけるのが上手いね」
「ぜってー勝つ」

 どれだけ兄に会いたいのだろう。
 兄に会ってどうしたいのかもよくわからない。
 今度会う時にでも聞いてみよう。そう思いながら、少し浮き足立っている一矢さんを見送った。

 
 ◇


 眞大君は次の日から「君は僕のだからね」と休み時間など、できる限り私の側にいるようになった。
 まるで恋人のように優しくされ、正直本当に恋人になったのではないかと錯覚するほどだ。
 
 少し浮かれていた私は、警戒心が緩くなっていた。
 それもあってか、「お前に恨みはないが、弱みを握るために〜」とよく絡まれるようになってしまうこととなった――。
 

 囲まれる前に逃げるのが私の基本だ。
 だが、今回は相手が早かった。放課後、眞大君と別れて学校を出ようとしたところで、待ち伏せされていた。
 すぐに距離を置こうと後ろへ振り返るがそこにも人がいて、気づいた頃にはすでに囲まれていた。
 逃げ出そうにも間をくぐっていける気はしない。

「お前が俺たちと手を組めば危害は加えねぇよ」
「ズルして頂点の座を奪うんですか?」
「ズルじゃねぇ。頭を使ってんだよ」
「頭を使うって言っても、弱い私を狙うのってどうなんですか……」

 正々堂々奪うのがこの学校の在り方だと聞いていたが、この人たちはそんなことを言っていられないらしい。
 それだけ眞大君が強いということなのだろうか。
 
 対話を続けても埒があかない。
 そう思った私は両手をあげ、降参した風を装った。
 そうすると、リーダーであろう人が「それでいいんだよ」と満足そうに寄って来た。
 すかさず腕を掴み、思いっきり投げ飛ばした。
 もちろん投げ飛ばした方向には複数人男子がいるわけなのでてんやわんや。
 その隙に逃げ、どこかいい隠れ場所はないかとあたりを見渡す。
 
 背後からは「待ちやがれ!」と怒声が聞こえてくる。
 慌てて廊下を走り、角を曲がる。
 何度か角を曲がり階段を登れば、背後から声が聞こえなくなった。
 振り切ったのだろうと息を整えていると、いきなり腕を掴まれ教室へと引きずり込まれてしまった。
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