私がヤンキー校の勝利の女神!?

5

 教室に引きずり込まれて、もうだめだと思った矢先、称賛の声が私の頭上から聞こえた。

「あんた、やるじゃん」

 声の主はなんと、いつも隣で寝てばかりいる佐藤天海さんだった。
 どうやら私が相手を投げ飛ばしていたところを目撃していたらしく、今回助け舟を出してくれたようだ。

「ええっと、ありがとうございます……?」
「オレ、弱いやつ嫌いなんだよね。何にもできないくせに口はうるさいし」
「え、あ……弱くてすみませ」
「でもあんたは自分の身は守れるし、ちょっと見直した」

 私が囲まれている時、私を助けるつもりもなくただ近くで見ていただけだったと話す。
 だが、私の投げ飛ばしに関心を持ったようだ。それが良いことなのかはわからないけど……。
 
「兄直伝の背負い投げができるだけですけどね」
「立ち向かえるだけマシでしょ。オレが褒めてんだから素直に受け取りなよ」

 私の頭をぽんぽんと軽く叩いた後、天海さんはそのまま教室を出て行ってしまった。
 追いかけようと思ったが、天海さんは窓から降りて行ってしまう。
 なんで皆窓から行ってしまうのかという気持ちと、校門までは送ってくれないんだ。
 という気持ちを抱きながら廊下に出てみると、どこかで喧嘩が始まっているようで喧騒が聞こえてくる。

「……あれ?」

 騒がしい方向を見てみると、さきほど私を追いかけていた人が天海さんに殴り倒されているところだった。
 周りにいた人たちはすでに地面に突っ伏している。
 たった数分で全員倒してしまうなんて……もしかしてやる気がないだけでかなり強いのだろうか。

「ありがとうございます!」
「あー……お礼よりもまた飴ちょうだいね。一華チャン」

 窓から大きな声でお礼を言えば、天海さんは微笑しながら私に手を振ったのだった。

 爽やか笑顔のところ悪いんですが、血まみれ怖い。


 ◇


「天海が人助けするなんて、珍しいね。近々槍でも振ってくるのかな」

 次の日、眞大君に学校で天海さんに助けられた話をした。
 天海さんの行動はかなり珍しいらしく、私が話す前からすでにそこそこ話題になっていたそうだ。
 
 隣で菓子パンを食べている天海さんは「ちょうど誰か殴りたかっただけ」と言い、2コ、3コと菓子パンを食べ進める。
 ビニール袋いっぱいに入っていたはずの菓子パンは、もうすでに残りわずかとなっていた。

「甘いもんばっか食って、力出んのかよ」

 またひょっこりと現れた一矢さん。頬には絆創膏を貼っていて、額には痣ができている。
 誰かと喧嘩でもしたのだろう。そういう学校だし。と気にせずいると、天海さんは一矢さんを見て笑顔で言った。

「負けた人間の言えることじゃないでしょ」
「ぐっ」
「え、喧嘩したんですか?」
「うん。オレがあいつらボコボコにしてたの見てたらしくて、オレとも戦え〜って」
 
 威勢良く来たかと思えば、難なく一矢さんを倒してしまったらしい。

「やっぱり天海さん強いんですね」
「あんたのおかげかもねー」
「へ?」
 
 菓子パンを全て平らげた後、私があげた棒付きキャンディーを口に含む。
 天海さんはこれ以上答えるつもりはないらしく、私は首を傾げた。
 私が戦法を伝授したわけでもないのに、いきなり強くなることなどないだろう。……なぜなのか。

「最近、僕は一華を守らなきゃって思うと力が湧いてくるんだ。きっと天海も似たようなものじゃないかな?」
 
 眞大君がそう言うと、ギョッとした表情を浮かべたのは一矢さん。

「お前らまじで言ってんのか……?」
「オレは別にそうとは言ってないんだけど」
「でも実際強くなったんじゃない? 僕は他の人たちにもさらに強くなったと評価してもらえたし」
「認めねーぞ! 俺はお前のためになんか戦わないからな」

 そう言って一矢さんは駆け足で廊下に出ていった。そろそろチャイムが鳴るため教室にでも戻ったのだろうか。

「きっと今から秘密の特訓とやらでもするんだろうね」
「授業は受けないの?」
「ここのやつが真面目に受けると思う?」
「2-1がそこそこ真面目に受けてる人が多いから勝手に受けてると思ってましたね……」

 眞大君を筆頭に、その周辺は真面目に受けている人が多い。
 と言っても私語はするしノートを真面目にとっている人はその中でも少ない方だが。
 
 天海さんはほとんど寝ているが、目が自然と覚めた時に黒板を見てタブレットでざっと確認している。
 確認を終えるとまた眠ってしまうことがほとんどだが、テストの点数はいつも良いらしい。
 わかりやすく天才タイプだ。

「話は変わるけど、そろそろ期末試験だね。一華は大丈夫そう?」
「文系は大丈夫だと思う。眞大君は優秀だし心配することはなさそうだね」
「いや、現代文はあまり得意じゃないよ。作者の気持ちとかよくわからないし」
「そうなの? 眞大君も苦手な科目ってあるんだ〜」

 完璧なイメージがあった眞大君だが、意外とそういう面もあるのだと少しだけ親近感が湧いた。

「だから僕に教えてくれないかな? 君の家で……なんて」

 口説き落としに来ているのかと思うほどの至近距離で言う眞大君。
 思わず椅子を引いて距離を取ってしまった。だが、眞大君は和かに笑うだけだった。
 
 眞大君と2人きりだと緊張しそうだなと思った私は、思わず天海さんを見る。
 天海さんは心底面倒臭そうにこちらを見返したが、ため息を1つ吐いた後、頷いてくれた。

「……オレも行けばいいんでしょ」

 天海さんは、「次の土曜日とかは?」と私に聞いてくる。
 眞大君はどう思っているのか気になって表情を確認したが、特に不満そうでもない。
 天海さんに助けてもらうことは想定済みだったのだろうか。

「土曜のお昼なら……」
「じゃあそうしようか。天海、遅れたら置いて行くからね」
「わかってるよ」

 唐突に決まった家への訪問。掃除、しておかないとな……。
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