私がヤンキー校の勝利の女神!?

7

 採点を行なった後、間違えた場所を教えあった。
 ……と言っても一矢さんは私がつきっきりで教えることになってしまった。
 優秀な眞大君は満点だと言うし、天海さんは凡ミスで数カ所落としただけですぐに復習を終わらせてしまっていた。
 2人は好きなことをして時間を潰すことになり、眞大君は他の勉強、天海さんはまた眠ってしまった。
 

「これで理解できましたかね……?」

 私も自分の分からなかったところを、眞大君か天海さんに聞きたいんだけどなぁと思いながら、一矢さんに説明を繰り返していた。
 何度も説明の仕方を変えたりして、なんとか理解してもらおうと一矢さんのプリントに書き込んだ。

「……ああ、ようやくわかった」
「よ、よかった! 正直私も数式だけ暗記してて、どこで使うかとか分からなくなっちゃうからあんまり得意ではないんだよね……」
「おい」
「え?……あ、ごごごめんなさい。タメ口きいてごめんさい」
「いや、同級なんだしタメでいい。あと、一矢さんなんてよそよそしいからヤメロ」
「は、はい。……わかった。えっと、真君」

 男の子も下の名前で呼ばれたいものなんだなぁと、女子としか絡まなかった私は意外に思っていた。
 この学校に入るまで男子と絡むのは極力やめろと兄に言われていたこともあり、その辺りは詳しくないのだ。

「だったらオレもタメ口で、さん付けやめてほしいかも」
「天海さんまで?」
「正直オレ達に敬語とかさん付けする奴って少ないし、なんとなく気持ち悪い」
「きもっ!? ……じゃあ、天海君ってこれから呼ぶね」

 起きたばかりなのか、天海さ……じゃなくて天海君は、大きなあくびをしながら乱れた髪を整えていた。


 ◇
 

「終わったー!」
「お疲れ様」
 
 真君への説明を終わらせた後、自身の間違えた問題の疑問解消を終え、やっとの思いでプリントを終わらせた。
 終わった頃にはすでに夕方。オレンジ色の陽の光が窓から差し込んでいた。
 
「それではそろそろおひらきに……」
「一華、ただいまー」

 さっさと帰ってもらわないと兄が帰って来てしまう。と思っていた矢先、兄の声が玄関から響いてくる。
 「まだ勉強してるのか〜」と玄関で呑気に言っている兄。
 私は慌てて玄関まで行って、兄をリビングではなく2階の部屋へと誘導しようと背中を押した。

「そろそろ帰るから、友達が帰ってからリビングに来て」
「いいだろ別に。俺の後輩見たい」

 兄に力で勝てるわけもなく、階段まで押しやった努力も無駄となり、リビングへ方向転換する兄の背中を私は静かに見送った。
 男しかいないことは言ってるし、友達やめろとか言わないよね……。不安に思いながら後を追い、リビングの扉を開けた。

「あれ? 真じゃん。なんでカーテンにくるまってんの?」
「一華に裏正倒すまで会わないって約束したから……」

 カーテンに隠れていた真君。だが、足は見えてるし咄嗟に隠れようとしたからだろう、頭が隠れていないという。
 それにしても真君はすごく律儀だ。
 帰って来てしまったもんはしょうがねぇだろと嬉々として会おうなんて考えていなかったのだから。

「お兄ちゃん真君のこと知ってるの?」
「え、知ってるも何もお前のことがす……」
「テメェこら誰にも話すなって言ってただろーが!!」

 真君はカーテンから出て来て大きな声を出す。それを愉快そうに見るうちの兄。

 兄が話してくれたことを要約すると、どうやら私は昔、真君と遊んでいたらしい。
 だが、その時の真君はとても可愛く中性的だった。
 そのせいで私は女の子と勘違いしており、真ちゃんと呼んで可愛がっていたそうな。
 ……過去の私が真君にとても失礼なことをしていたとは思わなかった。

「それで、真は最強になったら一華にこくは……」
「マジで黙ってくんねぇ?」
「あはは、わかったわかった。それ俺の大事なコップだから割ろうとしないで」

 昔から大事に使っている私があげたガラスコップ。それを知ってか真君は落とすフリをして脅していた。
 兄は真君が本気で落とすとは思っていないようでヘラヘラとしているんだろうけど、私から見たら本気で落としてしまいそうに見える。
 だから少しハラハラしてしまう。
 
 私と目が合った真君は、コップをテーブルに置いてなんとか落ち着こうと深呼吸。

「へぇ〜。一矢がねぇ」

 天海君は知らない人全員に言いふらしそうな表情を浮かべる。珍しく生き生きとしているのがよくわかる。
 その隣で眞大君は余裕の笑み。なぜか私の側まで来て肩を抱き寄せる。

「一矢には悪いけど、今は僕のだから」
「うるせぇ今はそんなんじゃねーから。それをはじめに言うためにさっさと会おうと思ってたんだよ!」

 顔を真っ赤にして眞大君を睨み、ついでに私も睨まれる。
 これは聞かなかったことにしてあげるのが優しさだろうか。
 一応兄の言葉を遮って寸止めではあるし……。

「最後まで聞こえてないから大丈夫だよ、うん」
「それは聞こえてるって言ってるようなもんでしょ」

 天海君は呆れた表情を浮かべている。
 そっか、なんのこと? という鈍感レベルでないといけなかったのか。
 はっとした私はやり直そうと口を開いたが、真君は自分の荷物を拾い上げ、リビングを後にした。

「お邪魔しました!」
「お〜、また来てくれ〜」
「誰が来るか、バーカ!」

 キレ気味に言いつつも扉は静かに閉めてくれた真君。
 意外と丁寧だな……。
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