私がヤンキー校の勝利の女神!?
8
次の日、いつもどおり1人登校。
玄関を出る時、兄からニヤついた笑みで「今日も学校頑張れよ〜」なんて言われた。
「いつも勉強頑張ってるし、ヤンキーに絡まれないようにひっそりしていますけど?」と返したら、予想とは違った返しだったのだろう兄は大笑い。
これから面倒くさくなりそうな予感。
兄にはもう学校の話はしないでおこう。
そう心に決めたのだった。
家を出て、見慣れてきた景色を眺めながら歩く。
3人とは家が近くないらしく、誰かと「一緒に行こうね」なんて可愛い話などすることもなく。
正直、一緒に行こうね。なんて言うタイプはあの中で1人もいないだろうな。
……いや、眞大君ならありえるか?
でも意外とあの人はドライだ。
一度も一緒に帰ろうとか、デートに行こうとかそんな浮いた話はしていない。
ただ学校の時や学校の生徒と一緒の時、ものすごく優しく丁寧に接してくれると言うだけだ。
本当の恋人ではないのだから当たり前なのかもしれないが。
そんなよくわからない事を考えていたら、真君のことを思い出す。
まさか昔遊んでいた子が男の子で、今私と一緒の学校にいるなんて思いもしなかった。
しかも私に想いを寄せていたとは。
学校で顔を合わせるの、少し緊張するな。
もう「兄に合わせろ!」なんて言わないだろうし、真君が私を避けるかもしれない。
顔を合わせないなんてことも可能性としてはあり得そうだ。
「……一華、おはよう」
「お、おはよう」
と思っていたら、真君と出会ってしまった。
私が脳内で真君のことを考えていたせい?
というかむしろ真君から挨拶してくるなんて思わなかった。
しかも、ぎこちないながらも笑顔を向けてくるだなんて、誰が想像できるというんだ。
なぜか真君は私の歩幅に合わせ、隣を歩く。
ちょっと前なら絶対に考えられない行動なんですけど。
「昨日はあり、ありがとう……。あと、悪ぃ」
「いやいや、そんなそんな。むしろお兄ちゃんがごめんね」
昨日のことがあったからなのだろうが、兄に会って、暴露されそうになった後から態度の変動が激しい。
あまりにもこちらをじっと睨んできたので苦笑いを浮かべると、少しずつ赤くなっていく真君の顔。
昨日はもう私のとこなんて好きじゃない。とは言っていたが、再度意識し始めたと思ってもいいのだろうか。
そう思うのは、私の自意識過剰だろうか。
「あの……」
「一華、おはよう」
聞いてみようかと口を開いたが、背後から肩を軽く叩かれて振り向く。
「眞大君。おはよう」
そこには眞大君が笑顔で私を見ていた。
脳内が忙しくて気付いていなかったが、真君と挨拶以外言葉を交わさず学校に到着していたのだ。
無言よりも失礼な気がする。ごめんね、真君。
「今日は一矢と一緒なんだね」
「途中で会ったんだよ〜」
「そうなの? おかしいな……そっちの方向は一矢にとって、かなり遠回りだった気がするんだけど」
「な、なんでお前がそんなこと知ってんだよ」
「さぁ、なんでだろうね?」
面白そうに目を細めた眞大君は、私と真君の間に割り込んだ。
真君は恨めしそうに眞大君を見ていて少し面白い。
2人のやりとりを見ながら教室へと行き、真君と別れる。
名残惜しそうに見える表情に少しだけキュンとしてしまったが、私が勝手に脳内フィルターをかけているのだと解釈をする。
そうでもしないと以前までのイメージと大分違ってしまうから。
眞大君が2-1の扉を開けて、私に「どうぞ」と言ってくれる。
そこまでしなくても……と思いながらも感謝を述べた後入っていけば、私に視線が集まる。
こう何度も見られると慣れてくるものだなと感心した。視線を無視して自分の席へと向かう。
「一華、おはよ」
「おはよう、天海君。今日は起きてるんだね」
「今日はそんな気分」
天海君と親しげに会話をする。その様子で異常だと判断した人たちは、ざわつき近くにいた人へ話しかけている。
その気持ちはわからなくもない。
初日は天海君に「綺麗」と言ってしまい凄まれたし、私は誰に対してもよそよそしかった。
なお、眞大君は「元々女子には優しいから」と周りが言っていたこともありそこまで気にしていなかった様子。
だが、最近はよく私と一緒にいて、彼女のように過ごしているのだから、見方も変わるものだ。
そして何より、真君と一緒に登校したことだ。
しかも大人しく自身の教室へと入っていく真君が珍しかったようだ。
いつもなら朝から誰かしらに喧嘩をふっかける。
勝敗関係なく怪我をしたまま学校徘徊。
授業は教室で寝ていれば御の字。
それが教室へと入り、誰かに喧嘩を申し込むこともなく静かなのだから。
兄に「怖い人は嫌い」と発言した私の言葉をきっと真君に伝えているのだと思う。
そうでなければ必死に笑おうとする真君は一生見られなかったことだろう。
「ちなみに、一矢には頭の悪い男は好きじゃないらしいよ。て言っといた」
「なんでそんな余計なことを……」
「喧嘩もだけど、試験の点数も競え〜とか言い出して、相手すんのがメンドーになったから」
日課になりつつある飴の受け渡しの時に、顔をしかめながらそう話す天海君。
「すっごい好きじゃん。私のこと」
「ま、今の一華を好きかは今後次第じゃない? 期待しない方がいいと思うけど」
「え? そんなことある?」
「それは本人次第」
話飽きたのかあくびを1つした後、天海君は「おやすみー」とだけ残して机に突っ伏したのだった。
◇
試験も終わり、今日はテストの返却と順位の張り出しが行われる。
負けず嫌いが集まっているため、こうして順位の発表をしているらしい。
喧嘩の負けず嫌いが多くいるのは想像できるが、勉強の負けず嫌いもいるんだなと私が感心している中、先生が廊下の壁に結果を貼っている。
2-1の人は見ている人が多く、2-3のところは人だかりがほとんどない。
よく退学しないものだと思っていたが、どうやら2-3は他に行くところがない問題児ばかり。
退学にならないのは、親が大金を注ぎ込んでいるからだと眞大君が言っていた。
お金さえあれば高校も卒業できるんだ……。
「眞大君が1位だね。さすが」
「一華は3位だね。一華は慣れない環境だったのにいきなりこの順位はすごいと思うよ」
「ありがとう! 眞大君はいつも優しいね」
ちなみに天海君は2位。試験の半分以上は眠っていたのにこれだけ勉強ができるのは素直にすごいと思う。
一緒に見ようと誘ったが、天海君は興味ない。と言って教室で音楽を聴いている。
試験でストレスが溜まっていたらしく今は1人でいたいのだとか。
「一矢は最下位から探した方がいいかも」
「おい、失礼なやつだな」
「あ、真君。どうだった?」
そう聞けば今にも自慢したそうな表情に変わる。
いい順位だったんだと思い、次の言葉を待った。
「68位だ!」
「それは、えーと、すごい?」
ドヤ顔の真君だが、過去の順位さえも知らない私には凄さは伝わらない。
ましてや眞大君と天海君の順位を見た後だとどうしても劣っているという判断になってしまう。
「十分すごいよ。以前は100位くらいだったからね」
「それは確かにすごい! よかったね、真君」
「おう!」
真君はとてもいい笑顔を向けてくれた。
仏頂面のイメージや赤面のイメージが強すぎたせいだろう。
微笑ましく眺めていると、突然我に返ったように仏頂面に戻った真君。
「まだ1組に行ける順位ではないってこと、思い出した?」
「なんでバレてんだよ。エスパーかよ」
「一矢はわかりやすからね」
今度はもっと順位上げてやるからな! とやる気に満ちた声色で眞大君を見て、私を見た。
「じゃあまた皆で勉強会しようか」
そうして私たち4人は仲良く勉強会を開くほどの仲になった。
玄関を出る時、兄からニヤついた笑みで「今日も学校頑張れよ〜」なんて言われた。
「いつも勉強頑張ってるし、ヤンキーに絡まれないようにひっそりしていますけど?」と返したら、予想とは違った返しだったのだろう兄は大笑い。
これから面倒くさくなりそうな予感。
兄にはもう学校の話はしないでおこう。
そう心に決めたのだった。
家を出て、見慣れてきた景色を眺めながら歩く。
3人とは家が近くないらしく、誰かと「一緒に行こうね」なんて可愛い話などすることもなく。
正直、一緒に行こうね。なんて言うタイプはあの中で1人もいないだろうな。
……いや、眞大君ならありえるか?
でも意外とあの人はドライだ。
一度も一緒に帰ろうとか、デートに行こうとかそんな浮いた話はしていない。
ただ学校の時や学校の生徒と一緒の時、ものすごく優しく丁寧に接してくれると言うだけだ。
本当の恋人ではないのだから当たり前なのかもしれないが。
そんなよくわからない事を考えていたら、真君のことを思い出す。
まさか昔遊んでいた子が男の子で、今私と一緒の学校にいるなんて思いもしなかった。
しかも私に想いを寄せていたとは。
学校で顔を合わせるの、少し緊張するな。
もう「兄に合わせろ!」なんて言わないだろうし、真君が私を避けるかもしれない。
顔を合わせないなんてことも可能性としてはあり得そうだ。
「……一華、おはよう」
「お、おはよう」
と思っていたら、真君と出会ってしまった。
私が脳内で真君のことを考えていたせい?
というかむしろ真君から挨拶してくるなんて思わなかった。
しかも、ぎこちないながらも笑顔を向けてくるだなんて、誰が想像できるというんだ。
なぜか真君は私の歩幅に合わせ、隣を歩く。
ちょっと前なら絶対に考えられない行動なんですけど。
「昨日はあり、ありがとう……。あと、悪ぃ」
「いやいや、そんなそんな。むしろお兄ちゃんがごめんね」
昨日のことがあったからなのだろうが、兄に会って、暴露されそうになった後から態度の変動が激しい。
あまりにもこちらをじっと睨んできたので苦笑いを浮かべると、少しずつ赤くなっていく真君の顔。
昨日はもう私のとこなんて好きじゃない。とは言っていたが、再度意識し始めたと思ってもいいのだろうか。
そう思うのは、私の自意識過剰だろうか。
「あの……」
「一華、おはよう」
聞いてみようかと口を開いたが、背後から肩を軽く叩かれて振り向く。
「眞大君。おはよう」
そこには眞大君が笑顔で私を見ていた。
脳内が忙しくて気付いていなかったが、真君と挨拶以外言葉を交わさず学校に到着していたのだ。
無言よりも失礼な気がする。ごめんね、真君。
「今日は一矢と一緒なんだね」
「途中で会ったんだよ〜」
「そうなの? おかしいな……そっちの方向は一矢にとって、かなり遠回りだった気がするんだけど」
「な、なんでお前がそんなこと知ってんだよ」
「さぁ、なんでだろうね?」
面白そうに目を細めた眞大君は、私と真君の間に割り込んだ。
真君は恨めしそうに眞大君を見ていて少し面白い。
2人のやりとりを見ながら教室へと行き、真君と別れる。
名残惜しそうに見える表情に少しだけキュンとしてしまったが、私が勝手に脳内フィルターをかけているのだと解釈をする。
そうでもしないと以前までのイメージと大分違ってしまうから。
眞大君が2-1の扉を開けて、私に「どうぞ」と言ってくれる。
そこまでしなくても……と思いながらも感謝を述べた後入っていけば、私に視線が集まる。
こう何度も見られると慣れてくるものだなと感心した。視線を無視して自分の席へと向かう。
「一華、おはよ」
「おはよう、天海君。今日は起きてるんだね」
「今日はそんな気分」
天海君と親しげに会話をする。その様子で異常だと判断した人たちは、ざわつき近くにいた人へ話しかけている。
その気持ちはわからなくもない。
初日は天海君に「綺麗」と言ってしまい凄まれたし、私は誰に対してもよそよそしかった。
なお、眞大君は「元々女子には優しいから」と周りが言っていたこともありそこまで気にしていなかった様子。
だが、最近はよく私と一緒にいて、彼女のように過ごしているのだから、見方も変わるものだ。
そして何より、真君と一緒に登校したことだ。
しかも大人しく自身の教室へと入っていく真君が珍しかったようだ。
いつもなら朝から誰かしらに喧嘩をふっかける。
勝敗関係なく怪我をしたまま学校徘徊。
授業は教室で寝ていれば御の字。
それが教室へと入り、誰かに喧嘩を申し込むこともなく静かなのだから。
兄に「怖い人は嫌い」と発言した私の言葉をきっと真君に伝えているのだと思う。
そうでなければ必死に笑おうとする真君は一生見られなかったことだろう。
「ちなみに、一矢には頭の悪い男は好きじゃないらしいよ。て言っといた」
「なんでそんな余計なことを……」
「喧嘩もだけど、試験の点数も競え〜とか言い出して、相手すんのがメンドーになったから」
日課になりつつある飴の受け渡しの時に、顔をしかめながらそう話す天海君。
「すっごい好きじゃん。私のこと」
「ま、今の一華を好きかは今後次第じゃない? 期待しない方がいいと思うけど」
「え? そんなことある?」
「それは本人次第」
話飽きたのかあくびを1つした後、天海君は「おやすみー」とだけ残して机に突っ伏したのだった。
◇
試験も終わり、今日はテストの返却と順位の張り出しが行われる。
負けず嫌いが集まっているため、こうして順位の発表をしているらしい。
喧嘩の負けず嫌いが多くいるのは想像できるが、勉強の負けず嫌いもいるんだなと私が感心している中、先生が廊下の壁に結果を貼っている。
2-1の人は見ている人が多く、2-3のところは人だかりがほとんどない。
よく退学しないものだと思っていたが、どうやら2-3は他に行くところがない問題児ばかり。
退学にならないのは、親が大金を注ぎ込んでいるからだと眞大君が言っていた。
お金さえあれば高校も卒業できるんだ……。
「眞大君が1位だね。さすが」
「一華は3位だね。一華は慣れない環境だったのにいきなりこの順位はすごいと思うよ」
「ありがとう! 眞大君はいつも優しいね」
ちなみに天海君は2位。試験の半分以上は眠っていたのにこれだけ勉強ができるのは素直にすごいと思う。
一緒に見ようと誘ったが、天海君は興味ない。と言って教室で音楽を聴いている。
試験でストレスが溜まっていたらしく今は1人でいたいのだとか。
「一矢は最下位から探した方がいいかも」
「おい、失礼なやつだな」
「あ、真君。どうだった?」
そう聞けば今にも自慢したそうな表情に変わる。
いい順位だったんだと思い、次の言葉を待った。
「68位だ!」
「それは、えーと、すごい?」
ドヤ顔の真君だが、過去の順位さえも知らない私には凄さは伝わらない。
ましてや眞大君と天海君の順位を見た後だとどうしても劣っているという判断になってしまう。
「十分すごいよ。以前は100位くらいだったからね」
「それは確かにすごい! よかったね、真君」
「おう!」
真君はとてもいい笑顔を向けてくれた。
仏頂面のイメージや赤面のイメージが強すぎたせいだろう。
微笑ましく眺めていると、突然我に返ったように仏頂面に戻った真君。
「まだ1組に行ける順位ではないってこと、思い出した?」
「なんでバレてんだよ。エスパーかよ」
「一矢はわかりやすからね」
今度はもっと順位上げてやるからな! とやる気に満ちた声色で眞大君を見て、私を見た。
「じゃあまた皆で勉強会しようか」
そうして私たち4人は仲良く勉強会を開くほどの仲になった。