私がヤンキー校の勝利の女神!?
9
――気がつけばもう、私がこの学校に来て1年が経っていた。
転校早々いろんなことがあったなぁとぼんやりと思う。
睨まれたり怒られたり。いきなり彼氏(?)のような人ができたり。
暴力沙汰を何度も目撃したり……。1年もすればそれら全て慣れてきてしまうものだなと感動するレベルだ。
時々なぜか私に喧嘩を売る人が出てきて、その度に背負い投げや眞大君達に教えてもらった護身術でかわす日々。
天海君は「強くなったね」なんて小馬鹿にしたように笑うし、眞大君は私の成長を微笑ましそうに眺める。
真君には「俺も負けてられねー」などと闘争心を燃やされてしまう。
ヤンキーから慕われることになるなど、1年前の私は夢にも思わなかっただろう。
3年にあがり自身のクラスを確認する。
1組に元々いた3人は変わらず1組。
ずっと上位を取り続けているのだから落ちるわけもないのだが。
去年2組だった真君は、なんとギリギリ1組に入ることができたのだと喜んでいた。
かなり自慢していたが、まだまだ上位には入れていないらしく、頭を抱えていた。
むしゃくしゃして喧嘩を自分が敵わない相手にふっかけるもんだから、傷をよく増やしていた。
今は保健室で私が真君の手当てをしているところだ。
「そんなにこの学校のトップに立つのって大事なの?」
「当たり前だろ。そもそもこの学校に入った時点で全員トップ狙ってんだよ」
傷口に消毒液を染み込ませた綿を弾ませる。
その度、痛みに苦しむ顔。ここまで痛い思いをしてまですることなのか疑問だった。
仕事に役立つことでもないし、何か卒業の際に景品がもらえるわけでもない。
人気と権力が手に入るという話は聞いたが、それで何かいいことに繋がるとは到底思えない。
兄も普通に大学に行って、普通に仕事に就いた。
時々、少し怖そうな人たちに「兄貴!」と笑顔で言われ人脈があるようには見えたが、それくらいしかわからないままだ。
「ちやほやされたいってこと?」
「その解釈は単純すぎてウケる」
保健室に入って来たかと思えば天海君はスタスタとベッドへ直行。
元気そうに見えるが、サボりだろうか。
「次なんだっけ」
「体育。自習だしここにいてもいいでしょ。一華もサボったら?」
「えー、真君の手当て終わったら行くよ」
「真面目〜」
天海君はそれだけ言って、首にかけていたヘッドフォンを装着し、スマートフォンをいじり始めた。
もう自分の世界だ。
「あいつ、喧嘩以外であんま動かねーからな」
「そういえば、天海君が体育真面目に受けてるとこ見たことないね」
「すぐ面倒臭がるからな」
手当てを終え、救急箱を片付ける。
私が立ち上がると真君も立ち上がる。
天海君と同じくサボるかと思っていた私は瞬きを数回。
「あいつと一緒にするな」
「天海君よりサボってた人に言われてもね」
「それはもう昔のことだろーが」
「はいはい。じゃ体育館でまた会おうね」
私は職員室へと向かう。
女子だけでどこかの部屋で着替えるには少し不安な点があるため、昔から女子は職員室にある空き部屋で着替えることになっている。
私の場合は制服の下に体操服を着ているので制服を脱ぐだけなのだが、そうは言ってもということで毎回借りている。
職員室から出て体育館へ。その間に出会う生徒たち。
もう驚くこともないが、今日はとても人が多い気がする。
嫌な予感がした私は走らない程度に全力で歩く。競歩とも言えない姿勢だが、イメージ的にはそんな感じだ。
角を曲がり後はまっすぐ行けば体育館。と思ったら曲がった瞬間誰かにぶつかり体勢を崩す。
よろめいた私の腕を掴んでくれて、尻もちをつくことは免れた。
「ごめんなさい。ありがとうございました」
すぐに離れようとしたが、相手が私の腕を掴んだまま離さない。
投げ飛ばさなきゃダメかと思って構えようとしたところで、手紙を差し出される。
もしかしてラブレター!? なんて浮ついた私だったが、相手は素っ気なく言う。
「これ、裏正に渡しといて」
それを受け取ると、その人は体育館とは逆の方向へと歩き出した。
気になった私は封筒に何か書いてないかと裏を向けた。
そこには名前も宛名もなくただ"果たし状"とだけ書かれてあった。
「えぇ……」
きっとまた喧嘩のお誘いのようなものだとは思うが、果たし状と書かれた手紙をまさか受け取ることになるとは思わなかった。
眞大君ならきっと簡単にやっつけてしまえるだろうと思ってはいるが、やはりいつまでも心配は消えないもの。
……とりあえず体育館に行こう。
そして眞大君にさっさと渡してしまおう。
私はなぜか爆弾を持たされた気分になり、駆け足で体育館へ急いだ。
転校早々いろんなことがあったなぁとぼんやりと思う。
睨まれたり怒られたり。いきなり彼氏(?)のような人ができたり。
暴力沙汰を何度も目撃したり……。1年もすればそれら全て慣れてきてしまうものだなと感動するレベルだ。
時々なぜか私に喧嘩を売る人が出てきて、その度に背負い投げや眞大君達に教えてもらった護身術でかわす日々。
天海君は「強くなったね」なんて小馬鹿にしたように笑うし、眞大君は私の成長を微笑ましそうに眺める。
真君には「俺も負けてられねー」などと闘争心を燃やされてしまう。
ヤンキーから慕われることになるなど、1年前の私は夢にも思わなかっただろう。
3年にあがり自身のクラスを確認する。
1組に元々いた3人は変わらず1組。
ずっと上位を取り続けているのだから落ちるわけもないのだが。
去年2組だった真君は、なんとギリギリ1組に入ることができたのだと喜んでいた。
かなり自慢していたが、まだまだ上位には入れていないらしく、頭を抱えていた。
むしゃくしゃして喧嘩を自分が敵わない相手にふっかけるもんだから、傷をよく増やしていた。
今は保健室で私が真君の手当てをしているところだ。
「そんなにこの学校のトップに立つのって大事なの?」
「当たり前だろ。そもそもこの学校に入った時点で全員トップ狙ってんだよ」
傷口に消毒液を染み込ませた綿を弾ませる。
その度、痛みに苦しむ顔。ここまで痛い思いをしてまですることなのか疑問だった。
仕事に役立つことでもないし、何か卒業の際に景品がもらえるわけでもない。
人気と権力が手に入るという話は聞いたが、それで何かいいことに繋がるとは到底思えない。
兄も普通に大学に行って、普通に仕事に就いた。
時々、少し怖そうな人たちに「兄貴!」と笑顔で言われ人脈があるようには見えたが、それくらいしかわからないままだ。
「ちやほやされたいってこと?」
「その解釈は単純すぎてウケる」
保健室に入って来たかと思えば天海君はスタスタとベッドへ直行。
元気そうに見えるが、サボりだろうか。
「次なんだっけ」
「体育。自習だしここにいてもいいでしょ。一華もサボったら?」
「えー、真君の手当て終わったら行くよ」
「真面目〜」
天海君はそれだけ言って、首にかけていたヘッドフォンを装着し、スマートフォンをいじり始めた。
もう自分の世界だ。
「あいつ、喧嘩以外であんま動かねーからな」
「そういえば、天海君が体育真面目に受けてるとこ見たことないね」
「すぐ面倒臭がるからな」
手当てを終え、救急箱を片付ける。
私が立ち上がると真君も立ち上がる。
天海君と同じくサボるかと思っていた私は瞬きを数回。
「あいつと一緒にするな」
「天海君よりサボってた人に言われてもね」
「それはもう昔のことだろーが」
「はいはい。じゃ体育館でまた会おうね」
私は職員室へと向かう。
女子だけでどこかの部屋で着替えるには少し不安な点があるため、昔から女子は職員室にある空き部屋で着替えることになっている。
私の場合は制服の下に体操服を着ているので制服を脱ぐだけなのだが、そうは言ってもということで毎回借りている。
職員室から出て体育館へ。その間に出会う生徒たち。
もう驚くこともないが、今日はとても人が多い気がする。
嫌な予感がした私は走らない程度に全力で歩く。競歩とも言えない姿勢だが、イメージ的にはそんな感じだ。
角を曲がり後はまっすぐ行けば体育館。と思ったら曲がった瞬間誰かにぶつかり体勢を崩す。
よろめいた私の腕を掴んでくれて、尻もちをつくことは免れた。
「ごめんなさい。ありがとうございました」
すぐに離れようとしたが、相手が私の腕を掴んだまま離さない。
投げ飛ばさなきゃダメかと思って構えようとしたところで、手紙を差し出される。
もしかしてラブレター!? なんて浮ついた私だったが、相手は素っ気なく言う。
「これ、裏正に渡しといて」
それを受け取ると、その人は体育館とは逆の方向へと歩き出した。
気になった私は封筒に何か書いてないかと裏を向けた。
そこには名前も宛名もなくただ"果たし状"とだけ書かれてあった。
「えぇ……」
きっとまた喧嘩のお誘いのようなものだとは思うが、果たし状と書かれた手紙をまさか受け取ることになるとは思わなかった。
眞大君ならきっと簡単にやっつけてしまえるだろうと思ってはいるが、やはりいつまでも心配は消えないもの。
……とりあえず体育館に行こう。
そして眞大君にさっさと渡してしまおう。
私はなぜか爆弾を持たされた気分になり、駆け足で体育館へ急いだ。