花言葉はピュア ー敏腕社長は百合のような彼女を守り抜くー
訪問者
綺麗な指だな、と稲沢環は思った。
短く切られた爪と形の良い長い指にしばし見惚れた。
その指の先に置かれたのは一枚の名刺。
その名刺には「株式会社『ring』取締役社長 葉山斎」と明朝体で印刷されている。
葉山は湯飲み茶碗に入れられた熱い緑茶を一口啜り、窓の方を見た。
外は冬の冷たい雨が静かに降り、木々の緑を濡らしていた。
その端正な横顔がふいに自分の方へ向けられ、思わず環は目をそらした。
狭い2DKのアパートに、亡き兄稲沢太一の友人だと名乗る見知らぬ男を招き入れるのは、少しばかり躊躇いがあった。けれど雨の中をわざわざ訪ね、手土産を渡してくる客を玄関先で追い返すほどの気の強さも環には備わっていなかった。
小さなテーブルの前に敷かれた座布団を勧め、お茶を出し終わると、葉山と何を話したらいいかも分からず、環は目を伏せた。