僕は彼女をこよなく愛している
「は?」
元々常に真顔の霞月。
更に冷めたように見つめ、すぐにスマホに視線を向けた。

「ねぇねぇ、一人?
一緒にお茶しない?」

「………」

「無視しないでよ〜」

「………」

「何見てるの?」

「………ちょっ…やめてください」
無視していたが、横からスマホ画面を覗いてきたので怪訝そうに睨みつけた。

「相手してよ〜
俺、暇でさ!」

「彼と来てるので、そこどいてください」

「でもいないじゃん」

「は?だから――――――」

ドン…………!!!!!

その瞬間、窓から鈍くて重い音が店内に響き渡った。
霞月や男性はもちろん、店内の客達が窓に注目する。

そこには―――恐ろしいオーラを纏った実陽が、霞月をナンパした男性を睨みつけていた。

「え……」
「み…ひろ…」

窓を殴ったであろう拳は、そのまま窓を突き破るのではないかと思う程に凄まじい力がこもっていた。

そして………

店内に回り、恐ろしいオーラを纏ったまま入ってきた実陽。

「誰?お前」
男性を睨みつけ言った、実陽。
実陽とは思えないくらい低く、重い声だ。

「え…あ…」
たじろぐ男性。

「彼女は、俺の大事な大事な恋人なんだけど?」

「す、すみません!」

「気安く声かけないでくれる?」

「は、はい!
し、失礼しました!」
そう言って、逃げるように店を出ていった。

それを睨みつけ、見届けて………
一度天井を見上げた、実陽。

大きく息を吐いた。

そしてパッと、霞月に微笑んだ。
それは“いつもの実陽”だった。

「るなちゃん、お待たせ〜!」

「う、うん」

「ごめんね!一人にしちゃって!」

「ううん…」

隣に座り、コーヒーを口にする実陽。
「あれ?ココアじゃないよ?」

「うん。
実陽は、コーヒーの方が良いかなって」

「良いのに〜
るなちゃんと同じの飲みたい!」

「うん、だから私もコーヒーにした」

「え?
るなちゃん、ココア大好きでしょ?」

「でもいつも、実陽が合わせてくれるからたまには…」

「そっか!
ありがとう!」

「うん。
……………」

恐ろしいくらいに、普通の実陽。
さっきの実陽は、別人だったのかと思う程に……


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