僕は彼女をこよなく愛している
キレる僕
最近、私の周りは賑やかだ――――――

「実陽〜」
「実陽、レポートした?」
「実陽くんだー!」
「実陽、今からどうすんの?」

あ、もとい…
“実陽の周りが”賑やかだ。

私の周りはいつも、シン…と静かだったから。

実陽はやっぱ、人気者だ。
実陽を見ていると、その所以がよくわかる。

相手が誰であっても、自分から声をかけ、微笑んでいて明るい。
感じが良く、話しやすい。

沢山の人達に囲まれて、羨ましいなとは思う。
でも………

どこか、疲れる。


――――――――――
――――――…………………

「実陽」

「ん?」

「おトイレ行ってくるね」

「え?
待って!トイレ前までついてく!」

「いいよ。
みんなで話してなよ」

「でも、るなちゃん可愛いから、ナンパされて連れ去られるし…」

「すぐそこでしょ?
なんかあったら、叫ぶから“実陽ー助けてー”って。
そしたら、飛んで来てくれるんでしょ?」

「うん、それはもちろんだけど……」

心配そうな実陽に軽く手を振り、霞月は近くのトイレに向かった。


用を済ませ、実陽の元へ戻る。
すると、すれ違った男子学生の鞄のポケットからハンドタオルが落ちた。

「え?あ……」
霞月はそれを拾い、声をかけようとする。
しかし、男子学生は気づかず行ってしまう。

「………」
(しかたない。
事務所に落とし物として渡そう)

そう思ったが、ふと…“実陽だったら、どうするんだろう”と頭に浮かんだ。

きっとその場で駆け寄り「落としましたよ!」と渡すだろう。

初対面の人に、例え落とし物を渡すだけでも話しかけるのは苦手だ。

でも………

霞月はハンドタオルを握り、男子学生の元へ駆けていった。
「あの!」

「……っえ…!?///////」
美人の霞月に声をかけられて、男子学生は心底驚いている。

「これ、落としましたよ」

「え?あ…す、すみません!
わざわざ、ありがとうございます!」

「いえ、じゃあ…」
軽く頭を下げ、今度こそ実陽の元へ戻った。


その後ろ姿を、意味深に見られていることも気づかずに…………

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