あやめお嬢様はガンコ者
婚姻届
婚姻届の証人のサインを久瀬くんのお父様にいただき、私は久瀬くんと東京に戻った。
私の父にもサインをしてもらい、私と久瀬くんは明日午後休を取って区役所に提出しに行くことにした。
結婚式は仕事が落ち着いた頃に挙げるつもりだ。

夜は私達の想いが結ばれた、思い出のホテルのレストランに行く。
ソファ席に移ってデザートを味わうと、久瀬くんが改まって私に向き直った。

「あやめ」
「はい」
「俺はあやめのことが誰よりも好きだ。恵まれた環境に甘んじることなく、自分の信念を持ち、しっかりと地に足つけて人生を歩む君を心から尊敬している。そんな君をそばで守り、支え、そして必ず幸せにしてみせる。世界中の人に平等に薬を届けたいという君の願いを、必ず一緒にやり遂げよう。あやめ、俺と結婚してほしい」

私は感極まって涙ぐむ。
胸がいっぱいになり、声が震えそうになった。
けれどちゃんと伝えたい。
久瀬くんに、私の想いを。

「久瀬くん。頭の固い意地っ張りな私を、ずっとそばで見守ってくれてありがとう。危ない時は助けてくれて、寂しい時は抱きしめてくれてありがとう。こんな私を好きになってくれて、一度は拒絶してしまったのに諦めずにいてくれて、本当にありがとう。ふたば製薬の信念に気づいて、私達に力を貸してくれて、本当に感謝しています。私も久瀬くんを幸せにしたい。久瀬くん、どうかずっとあなたのそばにいさせてください」
「もちろんだよ。これから先、何があってもずっと一緒だ。結婚しよう、あやめ」
「はい」

スッと流れ落ちた私の涙を、久瀬くんは優しく親指で拭ってくれる。
そしてジャケットのポケットに手を入れ、ビロードのリングケースを取り出した。
え?と驚く私に、久瀬くんはゆっくりとケースを開いてみせた。
まばゆく輝くひと粒ダイヤモンドのエンゲージリングに、私は言葉もなく息を呑む。
これって、私の為に?
いつの間にこんな素敵な指輪を用意してくれていたのだろう?

「あやめ、左手貸して」
「ダ、ダメ。震えちゃって……」
「ふっ、可愛い。いいから、貸してごらん」

久瀬くんは私の左手を下からすくい上げ、チュッと薬指にキスをする。
おもむろに指輪を手に取り、私の薬指にそっとはめた。

「よく似合ってる。忘れないで。この指輪と共に、俺はずっとあやめのそばにいる」
「ありがとう、嬉しい。久瀬くん、本当にありがとう」
「ふふっ、どういたしまして」

私は思わず手を伸ばし、久瀬くんに抱きついた。

「私、久瀬くんが大好きなの」

耳元でささやくと、久瀬くんは真っ赤になる。

「ヤバ……。素直なあやめは最強に可愛い」
「じゃあ、素直じゃない時の私は?」
「それも可愛い。拗ねてても意地張ってても、ガンコでも泣き虫でも、どんなあやめも愛おしくて可愛いよ」

今度は私が真っ赤になった。

「はは!照れて恥ずかしがるあやめもめちゃくちゃ可愛い」
「もう、久瀬くん!」
「ふくれっ面でもね。ほら、機嫌直して」

そう言ってチュッと唇にキスをする。

「く、久瀬くん!ダメ、こんなところで」
「じゃあ、早く俺の部屋に引っ越しておいで。迎えに行くから」
「え、いいの?」
「当たり前だろ?結婚するんだから」
「うん!私、久瀬くんのところにお嫁に行く」
「あやめ、可愛い……。じゃあ明日、婚姻届提出したら一旦家に帰って荷物まとめて待ってて。車で迎えに行く」
「分かった、待ってるね!」

笑顔で頷くと久瀬くんはふっと笑ってから、また優しいキスをくれた。
< 79 / 84 >

この作品をシェア

pagetop