殺したいほど憎いのに、好きになりそう
憎き王子様
藍ちゃんに言われた通り、体操服とブルマを着たまま、制服を着てみる。
これ、かさばるし動きにくいな。
今は秋だから良いけど、真夏だと辛そう……。
先生にお礼を言ってから、保健室を出て教室へと向かう。
廊下を歩いていると、白いエプロンを着た生徒たちが、銀色の大きな容器を持って歩く姿が見えた。
あ、そうか。4時間目が終わったからもう給食の時間だ。
匂いを嗅いだら、お腹が減って来た。
早く教室に戻ろっと!
※
渡り廊下を抜けて、俺たちの教室。1年7組へたどり着く。
各教室から美味そうな香りが漂っている。
この匂い、カレーだっ! 早く食べたくてたまらん!
そう思って、教室に入ろうとした瞬間だった。
教室の中から男子の声が聞こえてくる。
「なぁなぁ! お前ら見たか? 体育の授業で水巻の走る姿!」
「見た見た。最高だったよな! あいつ、普段は猫背でさ。暗いやつだから気がつかなかったけど、めっちゃ巨乳だよな!」
「マジかよ? 俺も見たかった~ そんなに揺れてたのかよ?」
なんかめっちゃ盛り上がっていると思ったら、俺のことか……。
確かに”この胸”。中学1年生にしてはデカすぎる。
大きすぎて、今も下がよく見えない。
そりゃ、多感な時期の子たちからしたら、俺は格好のエサ。
もしかして、”今晩のおかず”にされるのかな?
想像しただけで、寒気がしてきた。
これが女の子になった気持ちって、やつなのか……。
「こんなんだったぜ! バインバインってな」
なにをやっているのかと気になったので、教室の扉からコッソリ顔を出してみる。
すると、ひとりの男子生徒がアルミ製の容器を二つ持って、胸に当てていた。
うっ……あんな風に見られていたのか。
「マジかよ、ロケットおっぱいじゃん!」
クラスの男子たちは、俺の胸で大笑いしていた。
対照的に女子は黙り込み、冷ややかな視線を向けている。
優子ちゃんも頬を膨らませて、怒っているように見えた。
なんかこのまま、教室に入ると。確実に笑いのネタにされるな……。
どうしよう? 別に俺は良いけど、友人である優子ちゃんに嫌な思いをさせたくない。
でも、腹も減ってるから早くカレーを食べたいし。
俺が教室の扉の後ろで、考え込んでいると。
ひとりの男子が甲高い声で叫んだ。
「お前ら、いい加減にしろよ! 水巻は体調が悪いんだぞっ!」
この声、ひょっとして鬼塚か?
再度、教室の中を覗いてみると。
背の低い褐色肌の少年が、顔を真っ赤にして怒鳴っていた。
「水巻はぜんそくで、無理して走ったから息が出来なかったんだ! それを見て笑うとか、最低だろ!」
「!?」
な、なんで鬼塚が俺をかばうんだ!?
意味が分からん……。
「なんだよ、鬼塚。冷めること言うなよ。お前だって水巻の胸、見たんだろ?」
「見てない! 水巻が苦しそうにしていたから、心配しただけだ!」
「おい、こいつ。ダサいよな? 普段、先輩からボコボコにされてるくせに、こんな時だけカッコつけるとか」
「うるせぇ! お前らの方がよっぽどダセぇ! 弱い女で遊ぼうとして、男らしくねぇよ!」
はぁ!? 鬼塚のやつ。今の俺が女だから、弱いと決めつけてやがる。
クソ……なめやがって、いつか俺が鬼塚をボコボコにしてやりてぇ。
でも、なんでだろ? こう胸がスカっとする爽快感があるような……。