殺したいほど憎いのに、好きになりそう
第三章 1995年の休日

1995年の日曜日


 転生して色々とあったが、この女の身体にも慣れてきた。
 今日は日曜日。
 学校から宿題を出されているけど、全て無視。
 だって本当に分からないから……。いつか優子ちゃんに教えてもらおっと。

 自室のクローゼットに入っていた女物の服を眺める。
 どれを着たら良いか、分からん。
 デニムのオーバーオールがあるから、これにTシャツでも合わせてみるか……。

  ※

 財布を確認すると、3000円と小銭がちょっとあるぐらい。
 まあ中学生だからこんなもんだよな……。
 俺だったら、小遣いを貰ってすぐに使い切ってたし、この藍ちゃんって子は真面目なんだろ。
 自宅を出ようとしたら、お母さんに「女の子なんだから、夕方の5時までには帰って来なさいよ」と注意された。
 ったく、この時代じゃまだまだ性差別が酷いんだな。

 家を出て、JRの線路沿いに道を真っ直ぐ歩く。
 踏切を抜けると、25年前の”真島(まじま)”という街を再確認することになった。
 何もかもが前世とは大違い、駅名が真島駅ではなく、”筑前真島(ちくぜんまじま)”だし……。
 
 25年後の駅なら、出てすぐに旧3号線の道路へと突っ切ることが出来るけど、とある建物で迂回しなければならない。
 まだこの時代は、存在していたっけ。”メルティグラス”が。
 過去には、天皇陛下が巡幸された伝統あるガラス製の芸術作品を作る工場のことだ。
 
 すごい工場だってのは、前から知っていたけど。
 しばらくしたら、廃業して他の場所で活動していると聞いたが。
 まあ、真島の有名な場所でもあるし、ここは遠回りして歩くとするか。

 駅前までくると、久しぶりに見る名前が看板にある。

『ビデオレンタル 旧作300円 新作500円』

 あ、あれは……懐かしい。
 随分とお世話になった、レンタルビデオショップじゃないか!
 男の時はよくエロビデオとアニメを借りたもんだ。
 まあ、この店も後に潰れてしまったが。
 せっかくだから、店の中に入ってみよう。
 
 この時代はDVDも無いし、サブスクなんて便利なものは一切ない。
 まだまだアナログなもので溢れていた。
 小さくて狭い店だけど、駅前のレンタルショップだから、結構人気な店。
 自動ドアが開くと、ロン毛の若い男性が気だるい顔をして「らっしゃい」と言う。
 恐らく、付近の大学生だろう。

 早速、新作のビデオコーナーへ向かったが、どれも見た映画ばかりだ……。
 これに500円を払うのは辛い。なんせ3000円しか無いから。
 そうだ! ここは古典的な映画でも借りてみようか。白黒映画はさすがに見たことないから。
 と、店の奥へどんどん進んでいく。
 別に意識していたわけじゃないが、古い作品が並ぶコーナーはエロビデオが近い。
 18歳未満禁止の黒いのれんが掛かっている。

 さすがにこの身体では、入れんな。
 というか、店の壁に裸の女優のポスターが貼ってあるけど、古い……。
 この時代で人気だったセクシー女優を眺めていると、のれんから数人の男たちが出て来た。
 思わず、目が合ってしまう。

 気まずいなと思っていたら、出て来た男たちが俺を見て、かなり驚いていた。

「なっ! み、水巻!?」
「へ……?」

 誰かと思ったら、この前学校で”俺の胸”をいじっていたクラスメイトたちだ。
 全員、手に持っているのは、タイトルに必ず巨乳と書かれている。
 やっぱり、俺を考えておかずにすんのかな……辛すぎ。

「ち、違うから! これは兄ちゃんに言われて借りるんだよ!」
「そうそう! 頼むから誰にも言わないで!」
「水巻、なんかレンタルするなら、おごろうか?」

 ガキだな。心底、呆れる。
 でも、俺も男だったから気持ちは分からんでもない。

「別にいいよ……誰にも言わないし」

 そう言うと彼らは、慌ててカウンターへ逃げて行った。
 なんかビデオを見る気が失せた。
 どっか他の店へ行くか……。
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