殺したいほど憎いのに、好きになりそう

聖人君子


 ビデオ店でエロビデオをレンタルしている男子を見て、一気に冷めてしまった。
 巨乳ものだったし、チラっとしか見えなかったけど。
 たぶん、今の俺。水巻 藍に似た幼い顔の女優を選んでたもんなぁ。
 色々としんどい……。

 仕方ないので、駅前をブラブラと歩くことに。
 1995年の真島駅……じゃなかった筑前真島駅は汚いなぁ。
 タクシー乗り場が無くて無法地帯だから、車でいっぱい。
 下手したら、接触事故を起こしそう。
 当時は普通に歩いたものだが。

 駅を通り過ぎると、すぐに目にしたのはゲームセンター。
 そして店の前でたむろする”チーマー”達。
 まだ顔は幼いので、ひょっとしたら中学生も混ざっているのかな?
 タバコを吸いながらスケボーで遊んでいる。

「ギャハハハ! 下手だっぺ、お前」
「俺まだ、始めたばっかだっぺ!」

 うへぇ……治安悪いな、この辺りは。
 ちょっと、駅周辺はやめておこうっと。

  ※

 元々が陰キャのひきこもりだから、本屋へ入ることにした。
 前世じゃ個人経営の本屋は潰れまくったけど、この時代ならまだたくさんある。
 ゲームも一緒に販売している大きな本屋だ。
 名前は確か、”A2(エーツー)”だったけ?

 自動ドアが開くと、まっすぐに雑誌コーナーへ向かう。
 昔のくせで、グラビア雑誌のコーナーへ来てしまった……。
 表紙になってるアイドルが懐かしすぎる。
 ”ヒナカタ・アキコ”だもんなぁ。
 若っ! よくお世話になったから、買っちゃおうかな?

 気になったので、そのグラビア雑誌を手に取り、立ち読みしてしまう。
 この時代ではグラビアアイドルやっていても、後に有名な歌手や女優になるタレントが何人もいる。
 ってことは、これ買って綺麗に保管してたらプレミアつくかな?

 黙ってグラドルの水着姿を見ていると、近くにいた人々の様子がおかしい。
 こちらを見てヒソヒソと小声で何かを話している。
 あ、ヤベッ……今は女の子だった。

 恥ずかしくなった俺は、すぐにグラビアコーナーから退散する。
 すると、マンガ雑誌のコーナーに見覚えのある姿が目に入った。
 ツンツン頭の小柄な少年。ショートパンツにタンクトップを着ている。
 いつも制服姿だから気がつかなったけど。本当に全身の肌が焼けているんだな。
 それか、生まれつきの地黒とか?

 あ! わかったぞ!
 こいつもさっきのビデオ店で見た男子生徒と一緒で、夜のおかずを買いに来たんだな。
 よし、何を買うか後をつけてやろう。
 それでレジ前に立った時、わざと声をかけてやろう。鬼塚の黒歴史になるだろう。

 ~5分後~

 さっきからずっと鬼塚のやつを見張っているが、おかずらしいものは手にしていない。
 彼が立ち読みしている本は、『月刊 バスケ』スポーツ雑誌だ。
 わかった。こっちはフェイクで後からスケベな本を下に隠して買うんだろ? 常套手段(じょうとうしゅだん)さ。

 しかし、俺の予想を裏切り、鬼塚はそのまま雑誌を閉じてレジへ向かう。
 ちゃんとお金も払うし、なんだったら、お店の人に頭を下げていた。

 クソがぁ! なんで買わないんだよっ!
 男なら買うだろ、普通!
 前世じゃ俺のことを虫のように扱ってたくせに。
 聖人君子か、てめぇは!?
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