殺したいほど憎いのに、好きになりそう

父さんが母さんで、母さんが父さん。


 女装した父さんに起こされて、俺は動揺していた。
 あれは、本当に俺の父親なのか?
 でも、高齢で腰の曲がった父さんにしては、偉く元気だったな。
 まるで若かりし頃の父さんみたい……。

「あっ!? 本当に時を戻したってのか! あのクソ女神」

 
 しかし、俺が本物の女の子に転生したというのならば、確かめなければ……。
 おそるおそる、視線を下に向けると、可愛らしいキャラクターのパジャマが目に入った。
 やけに胸が重たいと思ったら、本当に胸の谷間が出来ている。
 そして、右手でズボンの中身を確認したが……何も無いっ!

「マジで女の子になってるじゃん!?」

 辺りを見回してみるが、俺の部屋とは思えないぐらい、可愛いらしい女の子の部屋に激変していた。
 今、腰かけているベッドもぬいぐるみで囲まれているし。
 元の世界じゃゲーム機ばかり並べていたのに、この世界じゃピンク色のドレッサーが置かれている。
 女子力、高いな……この世界の俺って。


 鏡に映る自身の姿を眺めてみる。
 いくつぐらいかな? 中学生ぐらいに見える。
 でも、その割には身体が大きいな。ついでに胸もデカい……。
 サイズなんて分からないけど、Eカップぐらいかな。と自身の腕で胸を寄せてポージングしてみたり。

「結構、良い身体してんじゃん」
 
 出るとこはしっかり出てるし、身体は細くて肌も白い。
 小顔だし、目も大きい。確かにアイドルみたいな女の子だ。
 でも……何も感じられないんだよな。
 自分の身体だからかもしれないが、男の時ほど興奮できず、エロく感じられない。
 胸も軽く揉んでみたが、ただの肉。そう思ってしまうほど自分自身に興味が無い。

「一体なんでだろ?」

 そんなことをドレッサーの前で呟くと、自室の扉が勢いよく開かれる。

「藍っ! お前、母さんに言われたろ? 早く用意しなさい。いつまでも学校を休むなんて身体にも良くないぞ」

 と入ってきたのは、男装した母さん?
 な、なにが起きているんだ。この世界って……。

  ※

「聞いているのか、藍! 父さんだって、毎日お前のことを心配しているんだぞ?」

 とワイシャツにネクタイを巻く、母さんらしき人間。

「あ、あの……父さんじゃなくて、あなたは母さんでしょ?」
「なっ!? 藍、お前は父さんが心配してるのに、おちょくっているのか!?」

 げっ……めっちゃ怒っている。前世の母さんはもっと大人しい人だったから、ギャップがすごい。
 あ、そうだ。俺みたいに確かめたら良いんだよ!

「ごめん、ちょっとだけ触らせて」

 そう言って、スーツ姿の母さんにそっくりな、中年男性に手を向ける。
 股間をまさぐってみると……ある! 間違いなく男のシンボルが。

「な、なにをやってるんだ、藍! 性教育なら学校で習いなさい!」

 と恥じらう元母さんこと、今のお父さん。

「マジでお父さんだったんだね? ちなみに名前はなんて言うの?」

 そう質問すると、顔を真っ赤にして部屋から出て行った。

 後から知ったが、”(しげる)父さん”は女体化して”千恵美(ちえみ)”。
 ”美代子(みよこ)母さん”の方はエリートサラリーマンに転生して、”秀明(ひであき)”という名前らしい。
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