桜吹雪のなかで

「ダメだった」

訳を聞こうとしたときに、祐樹が口を開いた。

「永石 詩織(ながいし しおり)ちゃん。」
「詩織…?」
「えっ?なんか言った?」
「いや。」
「詩織ちゃん、記憶がないんだって。みんなよくしてくれるけど、なにも思い出せないって。」

記憶が、ない?

「だから今は、誰の気持ちにも応えられないって」

そこで祐樹は大きく息をして、言葉を繋げた。

「情けねーよな。笑えるよな。何も知らないでさ」
「そんな…」
「……」
「……」

なんて声をかければいいかなんて、分からなかった。
声が詰まって、言葉が出てこなかった。
そのまま、電話は切れた。

ゆっくりと規則正しく流れる機械音を耳から離す。

何も言ってあげられなかった。
今、祐樹はとても、とてもつらいだろうに。


俺は……
最低だ。





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