怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
招かれざる客
「いらっしゃいませ!」
午前十時。百貨店の開店時刻となり、各店のスタッフたちは来店したお客様に向けて一斉に挨拶する。全館ポイント二倍キャンペーン期間ということもあり、開店と同時に多くのお客様がコスメフロアにもやって来た。
女性客ばかりの中に、ひとりだけ男性客がいることに、私は気づいてしまった。彼は他のコスメブランドに目もくれず、私のほうへと迷いなく向かってくる。
赤いウインドブレーカーを着た背の低い男性客となると、ひとりしかいない。私は周りから分かぬように深く息を吸って、気持ちを落ち着けた。
「高階さん、久しぶり! 会いたかったよ!」
「木下様。ご来店ありがとうございます」
赤いウインドブレーカーを着た中年男性は、私の前で立ち止まって声をかけてきた。ひと月ほど前までは彼の声を聞くだけで顔が引き攣りそうになっていたが、近頃は作り笑いが板に付いてきたのだから、慣れとは恐ろしい。
彼の名は木下。私が働くコスメカウンターの常連客ーーいや、迷惑客だ。
午前十時。百貨店の開店時刻となり、各店のスタッフたちは来店したお客様に向けて一斉に挨拶する。全館ポイント二倍キャンペーン期間ということもあり、開店と同時に多くのお客様がコスメフロアにもやって来た。
女性客ばかりの中に、ひとりだけ男性客がいることに、私は気づいてしまった。彼は他のコスメブランドに目もくれず、私のほうへと迷いなく向かってくる。
赤いウインドブレーカーを着た背の低い男性客となると、ひとりしかいない。私は周りから分かぬように深く息を吸って、気持ちを落ち着けた。
「高階さん、久しぶり! 会いたかったよ!」
「木下様。ご来店ありがとうございます」
赤いウインドブレーカーを着た中年男性は、私の前で立ち止まって声をかけてきた。ひと月ほど前までは彼の声を聞くだけで顔が引き攣りそうになっていたが、近頃は作り笑いが板に付いてきたのだから、慣れとは恐ろしい。
彼の名は木下。私が働くコスメカウンターの常連客ーーいや、迷惑客だ。
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