怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する

最後の戦い

「ファンデーションがオークル02のお色で、下地がグリーンで間違いありませんか?」

「ええ、大丈夫です」

 およそ二週間の休みを終えて、私は店に出勤していた。日曜日ということもあり、コスメフロアも大賑わいである。

 そんな中で、私はファンデーションと下地を買いに来た優流に接客していた。

「日曜日だからか忙しそうですね。こんな時に来てしまってすみません」

「いえいえ! クリスマスシーズンとか年末年始に比べたらまだ余裕がありますし、大丈夫ですよ」

「コスメフロアに来たのは初めてですけど……こんな修羅場だったとは」

「ふふっ、働いていると見慣れてくるものですよ」

 ブランドによっては、混雑しているため整理券を配っているところも複数あり、化粧品を買うためにお客様が大行列を作っているのが、優流には衝撃だったようだ。

 ちょうどそこまで話していたところで、会計を頼んでいたスタッフが店に戻ってきた。

「優流さん、お待たせしました」

「ありがとうございます」

 商品を入れた紙袋を優流に渡して、店の入口まで見送る。友達や家族の接客をすることは今までもあったが、恋人の接客をしたのは初めてなので、なんだかくすぐったい気分だ。

「じゃあ、またあとで迎えに来ますので」

「……っ、はい」

 仕事が終わったあと、私たちは食事に行く約束をしていた。まだ終業まで時間があるものの、仕事終わりのことを考えて心はすっかり躍っていた。

 しかし、楽しい予定の前には、ひとつだけ終わらせなければならないことがある。それを思い出し、私は気を引き締め直した。
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