怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「お試しは以上となりますが、いかがなさいますか?」

「もちろん、購入するわ。それから、化粧水と美容液がなくなっちゃったから、それも一本ずつ欲しいわ」

「ありがとうございます、それではご用意しますね」

 私が勧めた来店予約でのフルメイク体験をしたことをきっかけに、真子はうちのブランドの商品をとても気に入ってくれた。スキンケアからメイクアップ用品まで買い揃えており、今では定期的に通ってくれる常連客である。

「ここのスキンケアに変えてから、全然肌荒れしないの。流石だわ」

「ふふっ、それは良かったです」

 真子は最初に会った時よりも、雰囲気が棘のない柔和なものへと変わっていた。肌荒れや化粧の悩みの解消が気持ちに良い変化を与えられたならば、何よりである。

「ちなみに、これからどこかへお出かけですか?」

 真子はいつもおしゃれに気を使っているものの、今日はいつも以上に気合いが入っているように見えたのだ。

「お出かけというか……デート?」

 真子は少し照れくさそうに言った。

「最近お見合いで知り合った人なんだけど、私の面倒くさい性格も受け入れてくれる奇特な人で、最近は二人で出かけることも多くて……今日は食事してから映画に行くつもり」

「まあ、素敵」

 私がついパチパチと手を叩くと、真子は照れながらも嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあ、また来るわ」

「はい、ありがとうございました」

 真子を見送ってから腕時計を見ると、ちょうど退勤時刻となっていた。平日で混みあってもいないので、帰っても問題ないだろう。
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