怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
唖然とする私をよそに、優流はさっさとクレジットカードで会計する。金額に驚いていないあたり、おそらく乗り慣れているのだろう。

「領収書はご入用ですか?」

「いえ、結構です」

「かしこまりました。こちらレシートになります。それでは、ご利用ありがとうございました」

「ありがとうございました。では、高階さん、降りましょうか」

「は、はい……っ、ありがとうございました!」

 優流の呼びかけで我に返り、私は運転手に礼を言ってタクシーから降りた。

 タクシーが走り去ったあと、おそるおそる優流に声をかける。

「そ、その……御堂さん。タクシー代、半額お支払いしますので……」

「別に、気にしなくて結構ですよ。ただ……


「はい……?」

「ひとつ、ご相談よろしいですか?」

 何となく気まずそうに目を逸らして、優流は言った。堂々とした偉丈夫である彼がそんな表情をするなんて、意外だった。

「大変申し訳ないのですが……」

「?」

「偽の交際相手として、私とパーティーに参加いただけませんか?」

 偽の交際相手。

 パーティー。

 どちらも、これまでの人生でほとんど耳にしてこなかったキーワードだ。

「一度だけで結構ですので……」

 現実離れした優流の言葉を呑み込むのに時間がかかったのは、言うまでもない。
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