怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
優流いわく、弁護士事務所を持つ弁護士たちは、自分の子供が娘だった場合、事務所を継がせるために弁護士を婿養子にしたがるらしい。

 とはいえ、結婚適齢期の弁護士など世間にたくさんはいない。裁判官は弁護士へのキャリアチェンジが可能ということもあり、優流に自分の娘との縁談を持ち掛けてくる弁護士が後を絶たないのだという。

 優流は独身であるものの、これまで見合い話をすべて断ってきた。

 そのため周囲は、彼のことを「女嫌い」と勝手に判断していたようだが、そこに私が現れたという訳だ。

 「女嫌いでもないのに、なぜ縁談を断ったのか」と、断られた側は言いたくもなる。以前、会長の娘との縁談も断っていたこともあり、話の辻褄合わせが必要となったのである。

 そんな背景もあり、私は偽の交際相手として、パーティーに来たのだった。

「おお、御堂君。久しぶりだね」

 優流と共に挨拶回りをしていると、白髪頭の男性が声を掛けてきた。

「竹山会長、お久しぶりです」

 優流のひと言で、目の前に立っているのが件の弁護士会会長だと、私は察した。

「この前は急に電話をかけてすまなかったね。それで、お隣にいる方が……」

「初めまして。御堂さんとお付き合いさせていただいております、高階あずさと申します」

 なるべく落ち着いた口調で言って、私はぺこりと頭を下げる。今日だけで、同じ動作を何度したかも分からない。

「こちらこそ初めまして。東京弁護士会の会長を務めております、竹山と申します」

 どうやら私の態度は合格点だったようで、会長は愛想良く挨拶を返してくれた。

 けれども……彼の隣に立っていた若い女性は、私をきつく睨みつけていたのだった。
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