怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「あ、あの……?」

「ほら、真子もご挨拶なさい」

 会長が声をかけると、女性の表情はパッと愛想の良い笑みに切り替わった。

「初めまして、娘の真子と申します」

「は、初めまして……」

 真子も丁寧に挨拶してくれたものの、私は彼女が内心ブチ切れていることに気づいていた。

 なぜなら彼女の口調は、理不尽な言葉を浴びせられたあとにお客様を見送る時の美容部員の声色と、まったく同じだったからだ。苛立ちや怒りを抑え込むと、落ち着いたふうを装ってもやはり分かるものである。

 真子もまた、優流から見合い話を断られた一人。私を目の敵にしていても、おかしくはない。

「まさか、御堂さんにこんな素敵な彼女さんがいらっしゃったなんて。知りませんでしたわ」

 皮肉を込めたように「素敵な」をやたら強調して、真子は言った。

 無闇に嫉妬心を煽ってはならないと思い、私はサンドバッグになることを心に決めた。彼女と顔を合わせるのも今回だけなので、聞き流すのが最善と判断したのだ。

 しかし、真子は続けて意外な言葉を口にした。

「濃紺のドレスも靴も、とてもお似合いですこと」

 なぜか彼女は、私の服装を褒めたのだ。

 ドレスコードがある訳ではないが、パーティーということもあり、私はフォーマルなワンピースを着ていた。

 袖だけがレース地となっている、ミモレ丈のシンプルなワンピース。パーティールックに最適な服など持っておらず、去年友達の結婚式に参列した時に買った服と小物一式を、大急ぎで引っ張り出してきたのだった。
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