怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する

意外な一面

 静まり返った法廷に黒い服を着た裁判官が三名入廷する。それから、室内にいる傍聴人含めた全員が立ち上がり、黙礼してから着席した。よく見ると、私から見て左側の席に座った裁判官は優流だった。

「それでは、開廷いたします」

 裁判長の一声により、裁判は始まった。

「被告人、前へ出てください」

 裁判長に促されて被告人が証言台に立ってから、検察側は起訴状の朗読を始める。

 初めて傍聴する裁判は、フィクションの世界とは異なり、静かな空気の中で粛々と行われていた。

 私と凛が傍聴しているのは、高齢者を狙った電話詐欺事件の裁判だ。被告人はスーツ姿の若い男で、起訴状の朗読の間も暴言を吐いたり暴れたりすることもない。正直、外見だけならば罪を犯したとは思えないほどに普通の人である。

 張り詰めた空気の中、厳しく被告人の罪を追及する検事と、証人として来た被告人の家族ともに被告を弁護する弁護士。そして、双方の主張に耳を傾ける裁判官。当然ながら、張り詰めた空気が和むことはない。

 何だか……この場にいるだけで、息が詰まりそうだわ。

 法廷は普段の生活とは切り離された、現実離れした世界にも思えたのだった。
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