怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する

彼の秘密

「御堂さん、おはようございます」

「おはようございます。じゃあ、行きましょうか」

 私と優流は、軽く挨拶をしてからいつも通り駅に向かって歩き出す。今日は天気予報どおり気温が高いらしく、アスファルトの照り返しが暑く感じられた。

「御堂さん、長袖で暑くないんですか?」

 今日は暑さを見越して、私は半袖のTシャツを着ていた。しかし優流は、ジャケットは脱いでいるが長袖のワイシャツを着ていたのだ。

「ええ、このくらいの気温なら大丈夫です」

 そう言いながら、優流は手で額の汗を拭った。言葉とは裏腹に、見るからに暑そうだ。

 裁判官の方って、クールビズとかはないのかしら?

 内心私は、首を傾げた。

「そう言えば、この前凛から聞いたのですが、百貨店のフロアが順次改装していくみたいですね」

「ふふっ、そうなんです。うちのお店ももうすぐ改装するんですけど、今よりも店舗のスペースが広くなるみたいで……」

 優流と話す話題は、友達同士の雑談のような気軽なものばかり。恋人同士のような甘い時間を過ごす訳ではないが、それでも私の胸は高鳴っていた。
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