怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
 とはいえ、塗って時間が経たないと、ファンデーションの禿げ方や肌との相性などは分からないものだ。私は購入するか否かを聞くことなく、化粧品と化粧道具の片付けを始めた。

「万が一、塗った箇所に痒みや痛みが出てきたら、メイク落としですぐに落としてください。何か気になることがあれば、いつでも連絡してくださいね」

「ご丁寧に、ありがとうございます。……ところで」

 壁掛け時計をちらりと見てから、優流は私に言った。

「この後、何か予定はありますか?」

「いいえ、特には……」

「良かったら、お茶にでも行きませんか? ちょうど近所に、穴場のカフェがあるんです」

「っ、ぜひ行きたいです……!」

 優流の提案に、私は即座に頷いた。

 デートに誘われた訳でもないのに、心臓はうるさく音を立てている。二人きりでの外出というだけで、すっかり心が踊っていたのだ。

「少し身支度をしてくるので、待っててください」

「はい!」

 御堂さん、どこのカフェに連れて行ってくれるのかしら?

 ワクワクしながら、私は優流の準備が終わるのを待っていたのだった。
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