怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する

目指したきっかけ

「ここのカフェは最近できたんですけど、来るのは初めてですか?」

「はい……てっきり、お花屋さんだけだと思ってました」

 花に囲まれた可愛らしい店内を見回しながら、私はすっかり目を丸くしていた。

 私たちがやって来たのは、近所の商店街の傍にある、花屋の中にあるカフェ。店内は混みあっておらず、落ち着いた雰囲気だった。

「分かります。俺も最初見た時はそう思いましたが……ある時、ふっと立て看板を見て気づいたんです」

 ここのカフェは、三階建てのビルの三階にあるのだが、少し変わった造りになっている。

 まず、店先の立て看板には「flower shop bell 1F~3F」と大きく書かれているため、一見するだけでは花屋であることしか分からない。

 しかし、立て看板をよく見てみると「カフェも営業中」と小さく書かれているのだ。何気なく店の前を通り過ぎるだけでは、絶対に気づけない。

「ちなみに、このカフェは花に隠れた秘密基地がコンセプトみたいです」

「なるほど……だから、天井からテーブルまで、ぜんぶお花で飾られてるんですね」

 天井にはシャンデリアのようにドライフラワーが吊るされており、ガラスのテーブルの中には、押し花が飾られている。生花の強い香りはないものの、床や壁が木でできているため、木材の素朴な匂いがほんのりと感じられた。
< 77 / 120 >

この作品をシェア

pagetop