怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する

迫りくる恐怖

 その翌日。私は久しぶりの日曜休みを、ぼんやりとしながら家で過ごしていた。

 掃除をしていても、洗濯物を干していても、思い浮かぶのは優流のことばかり。ファンデーションを塗る時に触れた彼の腕の感触が、まだ指先に残っている気さえする。

 優流のことが、もっと知りたい。彼との関係が今以上に進展しないことは分かっていても、頭の中はその思いでいっぱいになっていた。

 しかし、私にはひとつだけ気になることがあった。

 優流が語ってくれた幼少期の話からは、痣をコンプレックスと思っていたような雰囲気が感じられなかったのだ。

 彼は痣があることで特別扱いされることは嫌がっていたが、それが理由で痣を消したいと思ったとは言わなかった。どうにも子供時代の話と、雨の日に焦って痣を隠した彼の態度が、私の中では繋がらないのだ。

 とはいえ、これ以上踏み込んだことを聞くべきでないことは明白だ。私は一旦考えるのを止めて、気分転換に紅茶でも飲むことにした。

「あら……紅茶切らしちゃってたか」

 紅茶の茶葉を入れている缶を開けると、ほとんど空になっていた。冷蔵庫にボトルのアイスコーヒーはあるが、昨日優流とお茶したせいか、今は無性に紅茶の気分である。

「夕飯の買い出しもあるし、先に買い物に行こうかな」

 身支度をして、私はスーパーに買い物に出かけることにした。
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