怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
 しかし、家の鍵をかけようとしたタイミングで、私はある異変に気がついた。どうにも、鍵が鍵穴の奥にまでうまく刺さらないのだ。

「……?」

 不思議に思って一旦鍵を抜いてから、私はスマートフォンのバックライトで照らした状態で、鍵穴を覗き込む。

「ひっ……!」

 穴の中を見た瞬間、私は悲鳴をあげた。
 
 鍵穴の奥には……細く切った紙くずが押し込められていたのだ。

 おそらく誰かが、鍵が外から閉まらないように詰めたのだろう。恐怖のあまり身体の震えが止まらず、私はスマートフォンを下に落としてしまった。

 すると、ちょうどスマートフォンの画面にメッセージアプリの通知が表示された。

 見てみると、優流から何かメッセージが届いているようだった。

 優流に迷惑をかけては駄目だ。そう分かっていても、パニックに陥っていた私は、無意識にメッセージアプリの通話機能ボタンを押していた。

『高階さん? 電話なんて珍しいですね。どうしました?』

「っ、御堂さん……!」

 私は優流に、必死に助けを求めた。
< 90 / 120 >

この作品をシェア

pagetop