モノノケモノ
そう言うと秀は、族長へ向かって走っていった。

その勢いを乗せたまま、空中に向かって肩からぶつかっていく。

私達から一番離れた側の森の木が音を立てたのを確認し、族長をずるずると引きずって戻ってきた。


「助けてきたよ」


え、結構乱暴な助け方なんですね。

引きずったせいで族長の傷がいくつかえぐられたような気がしたが、あまり気にしないことにした。


「あ、ありがとう。

秀見えたの?」


「ううん。

見えないけど、一カ所に止まって何かしてる時はさすがにわかるよ」


そのカンみたいなのだけで迷いなく飛び出していける秀の勇気に感心する。

私は、ただ恐ろしいと思いながらじっと見ていただけなのに、秀はチャンスを見極めていたんだ。

族長の傷は、思っていたよりひどくない。

大丈夫ですか、と声をかけると、うっすらと目を開けた。

そして私の隣で同じく族長を見つめていた秀に視線を移した。
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