この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
一章 世間話のできない男
一章 世間話のできない男


 長いことスタメンを張っていたダウンコートとブーツの出番がめっきり減ってきた三月中旬。

 アスティー製薬の本社は城下町として古くから栄えていた()(ほん)(ばし)の街にある。

 風景に埋没したレンガ色の本社ビルは内部も至って地味で、オシャレなカフェテリアなんて存在しない昔ながらのオフィス空間が広がっている。

 始業のベルが鳴ると同時に、部長がフロアの中央に歩み出た。

「それじゃ、朝礼を始めます」

 その台詞は代わり映えのしないものだったけれど、彼を見つめる環たちMRの顔はいつになく真剣だ。

 理由はただひとつ、四月からの新しい担当エリアと病院がこの場で発表される予定になっているからだ。

 そもそも製薬会社というのは、大きくふたつに大別できる。

薬局などで買える一般用医薬品をメインに扱う企業と、病院で取り扱う医療用医薬品を主力とする企業。

 ここ、アスティー製薬は後者のほう。業界四位と大手ではあるものの、上にいるトップスリーが強大すぎてその一角に割って入るのはかなり難しい。そんな立ち位置にいる。
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