音楽的秘想(Xmas短編集)
 母さん、聞こえる?僕達の声、聞こえてる?上京してもうすぐ二年経つけど、僕達は元気にやってるよ。ちゃんとご飯も食べてるから、心配しないでね。前はコンビニ弁当で済ませてたけど、最近はちゃんと二人で自炊してるからさ。

 ──でも、ね。欲を言えば、母さんのご飯が食べたいなぁって。父さんもそう言ってた。叶わないって、分かってるんだけどね?そう思うのは、我儘なんかじゃないでしょ?だって、“会いたい”とは言ってないんだもん。

 ここだけの話、風邪ひいた時はちょっとだけ寂しくなるんだよね。父さんは地元に居るから、瑞希がバイトで居ないと、余計気分が暗くなってさ。一人で寝るのも慣れたけど、まだちょっと寂しくなるんだ。ごめんね?手のかかる息子で。

 そんな時はいつも、この曲を聴くんだ。泣いちゃうんだけどね?聴くの、やっぱりやめられないんだ。瑞希も僕と同じだと思うよ。母さんのこと忘れられないし、忘れたくないよ。抱き締められた時の温かさも叱られた時の恐さも、何もかも覚えてるよ。

 会いたいよ、本当は。でも、僕達は生きていかなくちゃ。疲れた時は、少しだけ目を閉じてみるね。

 ──そこにはいつも、母さんが笑ってるから。
< 20 / 40 >

この作品をシェア

pagetop