音楽的秘想(Xmas短編集)
 ──自分の言葉で言おうとするとあんなに難しく感じるのに、どうして歌だと照れずに言えるんだろう。胸でつかえていた思いが、この歌にかかればすんなりと溢れてくる。いつもは“嫌い”だなんて言ってるけど、違うんだよ。あたしの気持ちは、歌の中にあるの。目を閉じれば、瞼の奥のあいつが優しく微笑う。胸の奥から熱くなって、そのツーンとした切なさは目に、鼻にくる。あぁ、泣きそうだ。

 もしこの思いを受け入れてもらえるとしたら、あたしの世界はどうなるんだろう。肌に染み込むような寒さよりも、あいつがあたしのことをどう思っているかの方が気になって仕方がない。あいつはこの曲をギターと唄ってくれたけど、ピアノと唄うのもなかなか良い。何と唄っても、根本的には同じ。人の心を、楽器はちゃんと知っているんだと思う。だからいつも、その気持ちにぴったりの音色を奏でてくれるんだろう。

 どうやって伝えようかと思った時、あたしには歌しかなかった。大好きな恋愛ものの映画の結末を、ふと頭に描く。長々した情熱的なラブレターには到底及ばないであろう、たかが6分34秒の曲。だけど聞いて欲しい。これがあたしの、精一杯の素直さだから……
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