音楽的秘想(Xmas短編集)
 ──気付けば目の前でじゃれていたカップルも居なくなっており、薄闇が姿を現していた。麻里絵にフラれたのも、丁度こんな寒くて寂しい日だったな。そう思って、天を仰ぐ。粉雪がクリスマスの空を、真っ白に飾り付けていた。

 誰かと……麻里絵と見られたら良かった。あのまま俺達が付き合っていたら、もしかしたら今頃は夫婦と呼ばれる関係だったかもしれない。そんなことを思う自分が酷く情けない。

 一度だけ会って、謝ることが出来たら。そう思いながら歩く真冬の道に、突如忘れかけていた甘いトーンが響いた。



「……心示(しんじ)?」



 緩やかな茶色い髪は、あの頃よりも少しだけ長い。だが、その顔に浮かぶ笑みは何一つ変わってはいなかった。「久し振り」と言って微笑むあいつ。俺達は、あの頃の二人に帰っていた。



「元気そうね。良い子捕まえた?」

「残念ながら、なかなか見つかんねーよ。麻里絵は結婚したんだって?その……おめでとう。」



 驚いた顔をする麻里絵に失礼だぞと言えば、「ごめん」と返してケラケラ笑う。あぁ、こいつ幸せなんだ。良かった。そう思ったら、自然と笑みがこぼれていた。
< 31 / 40 >

この作品をシェア

pagetop