音楽的秘想(Xmas短編集)
「──冬休み、やっと予定が合ったんだよ?風邪なんかひいてられないっ!」

「ハハハ、それもそうだな。お前、本屋のバイト頑張ってる?たまにはウチに顔出せって店長が言ってたぞ。」

「うん、頑張ってるよ!じゃあ、近い内に行こうかな。幸成(ゆきなり)の仕事振り、久々に見たいし。」

「彩李(さり)ちゃん、冷やかしなら来ないで下さいねー。」



 僕の言葉にクスクスと笑う君は、「この旅館ね、星が綺麗に見えるんだって!」と呟く。成程、星空観賞も良いかもしれない。頭を撫でてやると、君は首を傾げながらも、嬉しそうに口元を緩めた。

 そういえば、君は寒がりじゃないか。ハッと気付く。僕の心配をよそに、君の心は早くも旅行地へ行ってしまっているようで。呑気に鼻唄なんて歌いながら、実にご機嫌だった。



「……彩李、絶対風邪ひくだろ。」

「ひかないよー!ユキ君が注意しといてくれたらひきませーん!!」



 語尾に音符でも付きそうな声で、君が言う。あぁ、これは何が何でも星を見に繰り出したいって顔だな。こぼしそうになった溜め息をグッと堪え、苦笑を返す。

 ──仕方ないから、その時は僕のセーターを貸してやろうかな。
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