音楽的秘想(Xmas短編集)
「でも、何か勿体ないね。望の『G線上のアリア』、久々に聴きたかったよ。『Everything』、私は好きだから良いけどさぁ……」



 だからだよ、と言いたかった。“舞が好きな曲だから、僕は弾くことに決めたんだ”、と。意気地なしの僕にそんな大きなことが言える筈はなく、そっぽを向く。僕の思いを知らないのであろう彼女は、僕の機嫌を損ねてしまったと感じたらしく、小さく「ごめん、余計なこと言った」と謝ってきた。顔を背けたまま僅か、首を横に振る。隣から、抑えたような安堵の溜め息がした。



「……良かった。初対面からそうだったけど、最近の望って益々素っ気ないような気がしてたんだよね。
私、もしかして邪魔なんじゃないかなぁと思ってた。口うるさいし、バイオリンもなかなか上達しなかったし。一緒に居ると、望のお荷物なんじゃないかって……」



 腐れ縁だよね、ごめんという呟き声。悲しみを帯びたその瞳が、僕の意気地のなさを証明していた。

 ──伝えるなら今だ。彼女が大好きな、あの曲に乗せて。



「……演奏、ちゃんと聴いといてよ。」



 僕の言葉に、伏せた目をこちらへ向ける舞。さぁ、時間だ。僕のステージが、今から始まる。
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