音楽的秘想(Xmas短編集)
「ご来場の皆様、お待たせ致しました。只今より、第58回聖蘭学園クリスマス音楽祭を開催したいと思います。
堅苦しい挨拶は省きまして、早速参りましょう!プログラム1番、バイオリン学科3年、高階望君。曲目は『Everything』です。」



 立ち上がり、愛用の品を手に颯爽と歩き出す。疑問を含む視線を、背中に受けながら。赤い絨毯が敷かれた階段を上ってステージ中央に立てば、スポットライトが僕を捉える。ゆっくりと腰を折り、辞儀。拍手の音が、僕の心音を少しだけかき消した。バイオリンを構えれば、雨足が遠ざかるように静寂が訪れる。おい、ちゃんと聴いてろよ。心で呟いて、そっと瞑目した。

 ──何億何千万という人々がすれ違うこの世界。過ぎ行く沢山の時がある中で交わることが出来たこの奇跡を、君はどう思うだろうか。僕はとても、嬉しく思うよ。

 この12年間離れたことなんてなかったから、僕達には会えない時間がどんなに辛いかなんて分からない。だけど……想像したら、物凄く泣けてきた。君が思うよりずっと強く、僕は君のことが大切なんだ。“君は僕の全て”。君が居たから、僕はここまで来られたんだよ。

 ──さて、君には伝わっただろうか。
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