音楽的秘想(Xmas短編集)
 中央に用意された椅子に座り、ストラップの輪を頭からくぐり、ギターを膝の上に乗せる。弦を弾(はじ)き、響きを確かめる。掌に当たる赤いピックの感覚で、“これから弾くんだ”ということを強く意識した。

 本当はブレザー姿じゃなくて、トレーナーにジーンズ、ダウンジャケットなんかを着ている方が味が出るんだろう。だけど、ここではそれを着るのがルールだ。俺はまだ、学校という社会の中に居るんだから。

 軽く頭を下げれば、少しだけ大きくなった拍手。ピックを弦に添えれば、ざわめきが止む。目を閉じれば、ネオンが輝く聖夜の街角が、頭の中に広がった。

 ──なぁ、要。お前には届いてるか?俺の気持ち。弦をつま弾きながら、心で呟く。

 幸せな日々を過ごしている間は誰だって、いつまでもずっと、それが続くのだと錯覚してしまうもの。だからこそ、その幸せが消える時、稲妻に撃たれたような感覚になるんだろう。

 何かを失うのは、凄く悲しいこと。それが形あるものだろうとそうでなかろうと、辛さはいつも俺達を押し潰してくる。でも、要には気付いて欲しい。さよならに良いことがなかったとしても、“得るもの”はあるのだということに。
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