おおかみは羊の皮を被らない

不機嫌で(side:遠矢)

(side:遠矢)

忙しかった仕事が一段落。
久々の二人の時間。

「美彩、キスしてもいいかな?」

頬に手を当てて、背の低い美彩の耳元に顔を近づけ囁くけれど。

「イヤッ。」

顔を逸らして、いつものようにツンとした態度。
それでも俺から離れないのは。
本気で嫌だと思っていない。

寮の俺の部屋に無断で侵入させるのは、美彩の協力がないとできないことだし。
まぁ、学園からのお咎めなどないだろうけど。
墨の手引きもあるわけで。

とにかく俺は時間を無駄にはしたくない。

「ね、お願い。好きだよ、美彩。」

髪を指に絡めて、口もとに寄せる。

「嫌だって言った。」

視線を落として、目を合わせずに小さな声。

キスしても良いという美彩なりのサイン。
無意識だろうけど。

俺は美彩の腰に腕を回して抱き寄せ、強引なキスを落とす。
それに応えておきながら、君は。

「遠矢なんて、嫌い。」

「そ?俺は愛してるよ。」

上目で睨んだ美彩にキスを繰り返す。
すると、真っ直ぐな視線で。

「私も愛しているわ。」

美彩は自分の事を可愛げがないと言うけれど。
そこが愛しい。

君は、さみしいと言わない。
強さと弱さ。何かが引っかかる違和感。

それでも、この時間だけは。
君が不機嫌でも匂いは甘く、得ている幸せは美彩からの愛情……




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