おおかみは羊の皮を被らない

絆(side:遠矢)

(side:遠矢)

出社し、美彩について墨の報告を受けて愕然とする。
周りなど気にせず、本家の見張りさえ居ないものと考えて慣れてしまったのか。

社内で噂が広がり、俺の力の及ばなさ。社長は俺なのに。
理解できない美彩の社内環境。

今までの美彩の言動に、俺より先を見ていたのだと理解する。
自分の浅はかな考え……持っている力を過信した。

呪いと、緑色の目と同じ……
美彩を護れていない。追い詰めたのは、また……俺だ。

「どうされますか?」

どうするか。
何が出来る?社長命令?何と言うべきか。

美彩は俺の、一生の相手……呪いと戦い、子どもを……
ソレは、会社に関係のない事。

墨は俺を見つめ、助言などしない。
本家の監視も、見張るだけで言葉など発しない。

「主、会議の時間です。」

仕事……しないと、俺は社長だから……。

美彩は、仕事が出来ているだろうか。
会議さえ終われば。

「行こうか、墨。」

社長室のドアに手をかけ、急な寒気。
ドアを開けると、廊下に美彩の香りが充満している。

今までにない匂い。
甘さを感じない、ただ危機感を煽る香り。

「主、何か……」

「墨、後を頼む!」


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