おおかみは羊の皮を被らない

逆転?(side:遠矢)

(side:遠矢)

今日の晩御飯。
少し仕事が長引いて遅くなったので、目を輝かせて待っている美彩。
円華も椅子で大人しく待っている。

幸せな家族の時間。
後は、野菜に火が通るのを待つだけ。

出汁の味を確認するが、自分では何か分からない違和感。
小さな肉が浮かんでいたのをすくい、粗熱を取って指でつまんだ。

口に運ぼうとした瞬間、視線を感じる。

「ね、遠矢!それ、ちょうだい!」

美彩は俺のすぐ横に駆け寄り、口を開けて無防備。
俺には別の欲求がわいてくる。

美彩は、俺の視線に口を閉ざして首を傾げた。
もっと見たかったなぁ。

美彩の空腹を知って、悪戯心がウズウズ。
少し屈んでニヤリ。

「美彩、チュウしてくれたら……」

【ちゅ】

軽く触れた柔らかい唇。
思考の止まった俺に、ニッコリ。あまり見せない最高の笑顔。

「頂戴?」

不意打ちに、自分の顔が今までにないほど赤面しているのが分かる。

悔しいなぁ。
絶対に、俺の方が美彩を好きだという自信がある。

美彩は俺の指から肉を奪いモグモグ。

「美味しい。遠矢、大好き!あとちょっとだけ甘さ欲しいな。」

「……嫌いだよ。美彩は、俺を無様にするんだ。」

素直な美彩に、物足りない何か。
俺には、もっと愛情の甘さを頂戴……




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