おおかみは羊の皮を被らない

幸せ


俺は美彩の教室に向かい、ドアを開けた。

「……な、今は授業中だぞ。」

先生の言葉も無視して、美彩の席に行く。
彼女の軽い身を肩に抱きかかえ、抵抗も声も理解できない。

触れる温もりに、意識が集中する。
これで、触れるのが最後かもしれない……


「遠矢!!」

どれだけ夢中だったのか。
気が付けば、廊下の行き止まり。

後、数センチで壁。
俺は一歩下がって、美彩を下す。

「もう!私のお尻がなかったら、壁と当たってたよ?それに、授業中……何なの?」

美彩は下から睨んで不満を告げるけれど、さっきの拒絶の雰囲気はない。
いつものように、真っすぐ俺を見つめて。

その視線に安堵。

けれど、伝える言葉を受け入れてくれるとは限らない。
気を引き締める。

俺も真っすぐ視線を向けて。

「美彩、俺と真剣に……結婚を前提で、付き合ってください。」

「……え?」

俺の言葉に思考が追い付いていないのか、固まった表情と間。
俺の言葉の意味が伝わるかのように、美彩の頬が、みるみるうちに赤くなる。

「……い……」

また、“いや”?それは、これが呪いだから?
美彩の本心が知りたい。

「美彩、呪いが怖い?」

「怖くない!」

負けず嫌いな、挑むような視線。
君の強さ。


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