取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 子を愛する父の暴走と言われると、なんだか咎められなくなる。
「名刺をいただけますか」
 千景が口をはさむと、聖七は困惑したように直彦に目を向けた。

「根古間さん、こちらは?」
「夫の千景と申します」
 すかさず千景が答えると、聖七は眉を寄せた。

「ご結婚されていたのですか?」
「あ、それは……」
「今日中に婚姻届けを出しますので」
 優維にかぶせて千景が言う。

「そうですか。おめでとうございます」
 聖七はにこやかに言うが、その目は笑っていなかった。
「名刺はお父様にお渡ししております」
 言葉に棘があるように思えて優維は違和感を覚えたが、聖七のさわやかな笑顔はかわりない。

「お金は必ず期日までに返済します。ご心配なきよう」
 とどめのように千景が言い、聖七は目を細めて千景を見て、それから優維を見た。
「良い旦那様とご結婚なされるようですね」
「……はい」
 どぎまぎと目を伏せて優維は答える。

「父には私から話をしておきます。お嬢さん、またお会い出来ますか?」
「え?」
 思いがけない申し出に、優維はとっさに返事ができない。
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