取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る

「お断りします」
　横から千景が口を出す。
「あなたが断る権利はないと思うのですが」
　聖七は攻撃的に目をやるが、千景はひるむことなく彼を見返す。

「妻が誘われて不快に思わない男はいないでしょう」
　聖七は口元に歪んだ笑みを浮かべた。

「確かに旦那様の前で言うことではありませんね。失礼しました」
「はい」
　優維はほっとしたように返事をした。

「不動産をしておりますから、地鎮祭などでこちらにお世話になることもあると思います。どうぞよろしくお願いします」
　彼は再度お辞儀をすると、辞去の挨拶を述べて玄関を出て行った。

「優維さん、今すぐ届けを出しに行きましょう」
「え、あ、うん……」
　もともと今日出すつもりではあったが、なんだか千景は焦っているように見える。

「一刻も早く出さないとあの男がなにかしそうで心配だ」
「礼儀正しい人に見えたけど」
「意外に外面に騙されるタイプだな。君は人が良すぎる」
　優維は少しムッとした。簡単に騙される人間と思われるなんて心外だ。

　出かける準備をして千景とともに駐車場へ向かう。
　神社のこじんまりした駐車場に大きな白い車が止まっていて、優維は驚いた。
　車には詳しくないが、高そうだ。海外メーカーのエンブレムがついている。