取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「ごめん、こんな車で」
 謝ることじゃないのに、と思って千景を見ると、彼は微笑を浮かべて言い訳のように言う。
「仮想通過で儲けたときに調子に乗って買ってしまったんだ。若気の至りってやつ」
「言うほど年とってないけど」
 優維が苦笑すると、彼もまた笑った。

 一緒に市役所に行き、時間外窓口で届けを出す。
 受け取った警備員に「おめでとう」と言われて照れてしまった。
 帰りは千景が玄関まで送ってくれた。

「今日もありがとう。草凪くんには助けてもらってばっかり」
「俺はもう草凪じゃないよ」
 優維はハッとする。

「そうだった。根古間くん……というのも変よね」
「名前で呼んでくれ。俺はもう名前で呼んでるし」
「普通は名前で呼んだりするもんね」
 だが、昨日再会したばかりの彼を名前で呼ぶのは抵抗がある。

「呼んでみてくれ」
 催促され、優維は顔をひきつらせた。
 期待を浮かべて待たれてしまい、優維はこくりとつばを飲んで彼を見た。

「千景くん」
「くん、もいらない」
 千景はそう言って一歩距離を詰める。
 優維は思わず一歩を下がり、上がり框につまずいて倒れそうになる。
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