取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「あ!」
「危ない!」
 千景がぐっと抱き留めて、なんとか倒れずに済んだ。
 ほっとしたのもつかの間、千景の体温に包まれていることに気が付いて顔が熱くなる。

「ご、ごめんね」
 慌てて離れようとするが、千景は手にぐっと力を込めて離してくれない。
「千景くん……?」
 優維はどきどきする胸を抑えて顔を上げる。

「ああ、ごめん」
 千景はそっと手を離し、優維はようやくほっと息をついた。
「また連絡する。戸締りはきちんとしろよ」

「うん。あなたも気を付けて」
「ありがとう、奥さん」

 奥さんって言われた。
 どきっとした優維の頭を抱き寄せ、彼は軽く髪にキスをする。

「おやすみ」
 彼はさっと身を翻して玄関を出て行った。
 残された優維はキスされた頭を押さえ、顔を赤くして立ち尽くしていた。

***

 優維と別れた千景はひそやかに笑みを浮かべる。
 計画通り……いや、むしろ計画以上にうまく進んでいる。あの神社に借金があったのはいっそ好都合だった。

 このままなにもかもを手に入れてやる。
 千景の笑みは、いつしか不敵なものになっていた。
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