取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
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一カ月後、千景は話し合いで決めていた通りに根古間神社に転職した。根古間家での同居も決定済だ。
五月晴れの土曜日、彼は一足先に到着し、優維は緊張とともに彼を迎えた。
すぐに引っ越しのトラックが追いつき、業者に荷物を運んでもらう。
二階の一室が彼の部屋になったが、夫婦の寝室は別で用意されている。
結婚式は挙げる予定だが、時期はまだ決まっていない。
彼はまず優維の亡き母に挨拶したいと言い、祖霊舎——仏教での仏壇——にお参りした。
彼の心遣いに胸がじんとした。結婚相手が彼で良かった、と深く思う。
直彦にも挨拶に行きたいと言うので、自宅の隣にある神社の社務所に一緒に向かう。
直彦は慣れないパソコンで事務仕事に格闘していた。
「お忙しいところを失礼します。お義父さん、到着しました」
「いらっしゃい。今日からよろしくお願いします」
手を止めた直彦はにこにこと頭を下げた。
「君が娘と結婚してくれたらとずっと思っていたんだ。娘を頼んだよ」
「誠心誠意、尽くします」
千景もまた深々と頭を下げる。
「やめてよ、ふたりとも」
照れた優維が言うと、ふふ、と千景は笑った。
「予定通り明日からお勤めさせていただきますが……パソコンでお困りですか?」
「エクセルがうまくできなくて」
「これからは任せてください。急ぎでないなら明日やりますよ」
「ありがたい。事務は前も人に任せてたから慣れなくて」