取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「私がやるって言ってるのに」
 優維が言うと、直彦は首を振る。
「これ以上負担をかけたくないんだよ」
「私はこれからも神社で働くよ」
 結婚した優維はもう巫女としては働けない。年齢的にも巫女は引退の予定だったが、そのあとは社務員として雑務を担当するつもりだった。

「もっとみんなに来てもらえる、親しめる神社にしたいの」
 そうは言っても優維には具体的なアイディアなどない。イベント企画会社に就職できれば良かったが、近場にはそんな会社がなかった。

「それも俺に任せてほしい」
「でも、私がずっとやりたかったことなの」
「……失礼を承知で言うが、現在できていないのに、これからできるのか?」
 う、と優維は言葉に詰まる。実際、なにもできていない。鳴く猫はネズミをとらぬみたいに口だけだと思われたら恥ずかしい。

「今までは巫女の仕事をしてたから、これからは……」
「新婚そうそう親の前でケンカはやめてくれよ」
「ケンカじゃないし!」
 直彦のからかうようなつっこみに、優維はすぐさま言い返す。

「今夜は島岩さんに徹夜で麻雀しようって誘われてるから、仕事が終わったら行ってくる」
「お金かけたりしてないでしょうね」
「してないよ」
 直彦は慌てて否定する。
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