取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「島岩さんは賭けるときもあるみたいだが、少額なら法律違反にはならないようだし、大丈夫だろう」
 あ、と気がついて優維は千景に説明する。

「島岩さんは氏子の総代表なの。いい人なんだけど競馬や競艇が趣味で、借金したこともあって奥さんに怒られたの。暇だからそんなことするんだ、って言われて奥さんの勧めで総代長になって、それ以来は大人しくしているんだって」
「ああ、今度結婚の挨拶に行く方だね」
 優維は頷いてから直彦に言う。

「お昼、一緒に食べる?」
「もうそんな時間か」
 直彦は時計を見た。長針と短針が仲良く重なろうとしている。

「娘は料理上手でね、期待してくださいよ」
「それは楽しみです」
「ハードル上げないでよ。猫もまたいで通るほどまずくはないと思うけど」
 恥ずかしがる優維に、千景はやわらかな笑みを見せた。



 昼食を終えた直彦は神社に戻り、優維は千景の片付けを手伝った。とはいえ彼の荷物は少なくて、すぐに終わってしまった。
 茶の間で一緒にお茶を飲みながら、優維は居心地の悪さを感じる。

 どういう距離感で接したらいいのか、いまいちわからない。
 婚姻届けを出してからゆっくり会うのは今日が初めてだ。
 彼は土日も出勤だったし、優維は平日は会社、土日は根古間神社で働いていたから、完全にすれ違っていてデートもしたことがない。
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