取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 かろうじて彼のご両親への挨拶には伺ったが、引っ越しの準備があったから挨拶を終えたらすぐ別れて帰宅した。
 借金は結局、彼が第三者弁済で全額払ってくれた。法的な手続きは彼が全部やってくれたため、詳細はわからない。
 先ほど、少しでも返したくて自分の貯金を渡そうとしたら、拒否されてしまった。

「君の貯金で返済するのは違うだろ。どうしてもというなら神社のお金で払ってもらう」
「そんなのいつまでかかるか……」
 しかも、彼が働いて得たお金を彼に返すみたいで変な感じがする。

「聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「なに?」
 優維は首を傾げる。

「お義父さんがおっしゃっていたが、本当は別の仕事したかったのか?」
「子どもの頃の話。外国へ行って毎日パーティーに出る華やかな仕事をしたいって思ってたの。そんな仕事なんてないのにね」

「かわいいな」
「ありがとう」
 優維は少し照れた。

「お父さんは今でも私が外国で仕事したがってるって思い込んでるの。大学は国際関係学科に行ったから余計にかな。でも外国の勉強するのって神社を発展させるためにも必要だと思ったの」
 海外留学まではできなかったが、日本に来た留学生とはよく英語で会話をして、海外の文化に触れる努力をした。

 今では勉強したこととは関係ない仕事をしているが、英語だけは忘れないように洋画を原語で見たり洋書を読んだりしている。
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