取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「嘘じゃないよ」
「お見合いさせようっていう魂胆でしょ」
「会合で仲良くなった方を紹介するだけだ。本当にいい人なんだよ。跡を継ぐときには人脈も必要だろう?」
 慌てて言い訳するところがあやしい。

「お連れ様はあちらでございます」
 スタッフが窓際の男性を示した。

 優維は彼を見た瞬間、言葉を失くした。
 そこだけ空気がきらきらと輝いていて、一幅の絵を目にしているようでもあった。
 時間をつぶすときにはスマホを見ている人がほとんどだと思うが、彼はそのようなこともなく姿勢よく窓の外の景色を鑑賞していた。

 庭に面する全面がガラスになっていて、四月の青い空の下、繁る緑が鮮やかだ。造成された白糸の滝があり、木々の合間から涼やかに水を落としている。
 その清涼な清らかさよりもなお、彼は凛として清白だった。

 視線に気が付いた彼は立ち上がり、彼女らを出迎える。
 三十歳ほどだろうか。黒髪はつややかで短くまとめられており、さわやかだ。眉はきりりとしているが涼やかな目元のおかげで優し気に見える。頬のラインもシャープだが冷たい印象にはならず、口元に浮かぶ笑みのおかげか、それだけでほっとしてしまう包容力を感じた。

 背の高い彼を包むのは青みの強いネイビーのスーツ。シャドウストライプが痩身を強調し、白いシャツに薄緑のネクタイが爽やかで、江戸小紋のような地模様がさりげない。
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