取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 団体の代表は古原美穂子(こはら みほこ)。四十代だという彼女は活力にあふれ、てきぱきと指示を出して自身も動いていた。
 優維は千景とともに手伝った。直彦は地鎮祭で出かけていて不在だ。
 だいたいの準備が終わると、美穂子はふたりに頭を下げた。

「場所の提供、ありがとうございます」
「根古間神社は猫がご神体ですから、ご縁でございましょう」
 穏やかに述べる千景を見ると、笑えてきてしまう。猫が好きだから保護団体に声をかけたくせに、と言いたくてたまらない。

 ケージに猫を移すとき、美穂子が移動用のケージから洗濯ネットに入った猫を取り出したから驚いた。
「どうして洗濯ネットに?」
「こうしたほうが暴れないんですよ」
 どうやら猫飼いの間ではよく知られていることらしい。

 開始前には、千景と一緒に人懐っこい猫を触らせてもらった。
 子猫は大人の猫よりもふわふわでやわらかくて、こんなに違うとは思わなかった。千景が惚れこむのがよくわかる。
 だけど大人の猫もかわいくて、落ち着いていて飼いやすそうに見える。が、猫にも個性はあるし、腎臓病になりやすいというから、介護を含めて覚悟が必要だろう。

 知らない場所に警戒して縮こまる猫はかわいそうだった。良いご縁がありますように、と密かに祈った。
 準備を終えると、千景は猫に後ろ髪を引かれながら事務仕事のために社務所に向かった。
 優維は譲渡会に立ち会う。今回がスムーズに終了すれば次回からの立ち合いはない。

 開始時間の十時になると人がちらほらとやってきた。家族連れやカップルなどさまざまだ。
 優維は保護猫団体のフォローをしたりお茶をふるまったりして対応した。
 お昼は交代で休憩をとり、太陽は中天を過ぎてじりじりと地上を灼く。
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